関税政策が続けばいずれはアメリカで作られるクルマも値上がりする
仮に輸出する段階で、関税の増税ぶんを吸収する方法を考えてみよう。
前述した条件であれば、日本から輸出する際の価格を120万円にディスカウントすることで、アメリカが輸入したときの価格は8000ドルになる。こうなると27.5%の関税を支払ったあとの輸入価格は1万200ドルになるから増税前と同レベルだ。このクルマを1万5000ドルで販売すれば、アメリカの輸入業者の儲けは減らないし、アメリカの消費者も同じような価格で同じモデルを購入できる。
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このシナリオをアメリカ政府から見ると、関税を負担するのは海外企業となり、アメリカファーストを謳うトランプ大統領にとって、もっとも理想的といえるだろう。
日本の自動車メーカーにとっては輸出の利益が減ってしまうわけだから、高関税の犠牲者となる。日本国内でのコストダウンを強いられることは、自動車メーカーだけでなく関連企業や周辺にとってもマイナス材料であり、短期的にはアメリカの高関税はデメリットでしかない。
ただし、長期的に日本からアメリカへ輸出価格を下げ続けるというのは難しく、なんらかの改良を施すことで値上げしていくことになるだろう。同時に、アメリカ側の輸入業者は、関税が増えたぶんの利益を失うことを受け入れることになるはずだ。結果的に、アメリカの消費者は関税が増税される以前よりも高価なクルマを買うはめになる。
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関税によって保護されたカタチとなっているアメリカ国内生産車においても、関税が増えたぶんを加味して価格上昇したモデルに価格を合わせていき、アメリカでの自動車価格が上昇する可能性が高い。
このように、仕組みに最適化する資本主義においては、高い関税をかけ続けることはアメリカ経済を蝕む可能性が大きい。未来永劫にわたり高関税を維持することのマイナス面は大きい。
トランプ大統領が他国に「高関税をかけるぞ」と脅しているのは、あくまで交渉を有利に進める材料として利用するという外交手法と理解されている。ただし、トランプ大統領の交渉がうまくいっているとはいえない状況でもあるようだ。
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アメリカでは「Trump Always Chickens Out.(トランプは常にビビって取りやめる、の意味)」の頭文字をとった「TACO(タコ)」という造語が流行しているという。関税を上げるという脅しをしても、すぐに撤回したり、延期したりすることを揶揄したものだが、その背景には、資本主義が高関税にノーを突き付けている現実もあるといえそうだ。
自動車関税の増税についても、慌てて価格ダウンをするのではなく、様子見するという姿勢でいることが現実的な対応となるだろう。しかしながら、こうしてアメリカのカントリーリスク(政治・経済の不安定さ)が顕在化されたいま、アメリカ頼りのビジネスモデルから脱却する経営判断が求められる。