【試乗】悩ましいのはドッチにするかだけ! アルファ ロメオの新世代コンパクト「ジュニア」があまりにもよくて驚いた (2/2ページ)

姉妹車とは明らかに異なるアルファ ロメオならではの乗り味

 同じステランティスグループのなかのフィアット600eやジープ・アベンジャーとパワートレインのスペックは同じなのだけど、姉妹たちよりスピードとの親和性のようなものを強く感じるのは、パワーやトルクの盛り上げ方の制御が異なるからか、あるいはアルファ ロメオに乗ってるという先入観がそう感じさせるのか。

 何もアナウンスがないから正確なところはわからないのだけど、考えてみればスピード感やテイストといった感覚的な部分は、パワートレインだけでなく車体やサスペンションなどを含めたクルマ全体の総合得点みたいなもの。ほかのパートにもアルファ ロメオならではの味つけがなされてるわけだから、そう感じるのも当然といえば当然だろう。

 そのいい例がハンドリングで、BEVならではの重心高の低さと重量バランスのよさが利いて、素直に素早くコーナーをクリアできるというところは姉妹たちと同じ。けれど、やっぱり味つけが異なってる。サスペンションはフィアットやジープなどより引き締められてるのだが、ガチガチな感触は微塵もなく、4つのタイヤそれぞれに掛ける荷重をアクセルやブレーキのペダル操舵でコントロールしていきやすい。つまり、クルマに“こう曲がりたい”という意志を伝えやすいわけで、それに忠実に応えてくれる懐の深さもしっかりもっている。

 車体を適度にロールさせ、適度なところで動きを抑え、そのロールを上手く利用しながら綺麗にコーナーを曲がらせてくれる。そういったところに昔からの“らしい”テイストが感じられて、僕はかなり嬉しくなった。

 テストコースを全開で走らせたときのヴェローチェのような驚くほどのコーナリングスピードは、もちろん普通のワインディングロードだったこともあって味わえなかったけど、感触としてはこれで十分。街でも高速道路でもワインディングロードでも、BEV+アルファ ロメオの楽しさと気もちよさ、美味しさを存分に味わうことができた。

 もう一方のMHEVは、見るのも触れるのも初めてだった。こちらについても正直に白状するけれど、「実用アルファとしてはよさそうだけど、スポーツ性に関してはどうだろう?」ぐらいに考えてたところがあった。なぜかといえば、まずはイブリダがMHEVにしては珍しく、モーターだけで走ることもできるから。バッテリーの充電量がある程度満たされていて、アクセルの踏み込み量がそう多くなければ、モーターだけで発進してスルスルと30km/h+αまで行けちゃうというのだ。これは燃費に効きそう=実用的。そうとらえるのが自然だと思う。

 ここに関して先に触れておくと、実際に街なかでゆったり走ってたり軽い渋滞のなかにいたりすると実感するのだけど、想像してたよりはるかにモーター走行の時間が長かったりする。モーターが小さいくせに減速時にはしっかり回生が利いてる感覚があって、やっぱり容量の小さなバッテリーは結構な勢いで電気を取り戻している。高速道路や郊外の道などでは、ふと気づくとコースティング走行をしてたりもする。燃費に効くのだ。

 今回は限られた時間での試乗ゆえ燃費など気にせず走ったので参考らしい参考にもならないとは思うけど、ワインディングロードなどでは気もちよく踏ませてもらって、街なかや高速道路ではごくごくフツーに走って、最終的にはメーター上に19.7km/Lという数字が残った。その日にどういう走り方をしていたかを知ってるわけだから、僕は十分に満足できる燃費だと考えてる。

 そしてもうひとつは、搭載してる内燃エンジンが1199ccの直列3気筒DOHCターボで、パワーは136馬力/5500rpm、トルクは230Nm/1750rpmという数値であること。48Vのマイルドハイブリッドシステムと組み合わせられるとはいえ、6速DCTに組み込まれたモーターは22馬力に51Nmに過ぎない。システム合計では145馬力になるようだけど、モーターが小さいからBEVほど強力な力強い加速感などは望めないだろうと、うっすらぼんやり考えてたのだ。

 いや、申し訳ない。それは僕の完全な認識不足。イブリダはゼロ発進の段階から“ウソだろ?”と感じられるほどの力強さと粘っこさを発揮してみせたのだ。小さなモーターは内燃エンジンの反応が鈍い領域、あるいはわずかに感じられるターボラグなどのネガなどを思いのほか巧みにカバーしていて、じれったさや力不足などをほとんど感じさせない。加速感も速度の伸び感も、しっかり満足できるレベルだ。瞬発力の面ではBEVのエレットリカに譲らざるを得ないけれど、総合的な速さにおいて感覚的な遜色はまったくない。

 考えてみたら、それもそのはず。エレットリカのパワーウエイトレシオは、10.1kg/馬力。イブリダは9.2kg/馬力。トルクの立ち上がり方の点でBEVに分があるから数値の単純比較にそれほど意味はないのだけど、遜色がなくて当然といえば当然なのだ。加えて内燃エンジンとDCTをもつMHEVには、ステアリングの裏側に小さなシフトパドルが備わっている。自分でシフトを切り換えられるわけで、操縦感覚がより濃厚なのだ。そこが走る楽しさを膨らませてくれる。これも無視できないポイントだろう。

 ハンドリングもなかなかのものだった。ロールしていくときの動き方や抑え方、ロールの利用の仕方などは、エレットリカと同じベクトルの上にある昔からの“らしい”テイストが残るもの。ただ、小さくて軽いとはいえ内燃エンジンを積むことで重心高が高くなってることに起因するのか、足まわりはクルマの動きの自由度を高めつつ抑えるところはしっかり抑えるというようなセッティングがなされてる感じで、乗り味としてはよりしなやか、曲がり方としてはより軽やかな印象だ。

 面白いのは、同じベクトルの上にしっかり載ってるというのに、エレットリカにはどんどん攻め込んでいって楽しみたくなるようなところがあって、イブリダは8割とか9割ぐらいの領域で走るのが楽しくて気もちいいと感じるようなところがあること。構造上、BEVと比べたら不利になる分、僕たちの常用域や常用域+αあたりでより満足感が感じられるよう味つけされてるのかもしれない。いずれにしても楽しさや気もちよさの総量は変わらずで、このカテゴリーでのトップクラスといえるほどのドライビングプレジャーをもってることは確かだと思う。

 今回の試乗で問題があったとすれば、どちらのジュニアもかなり好印象で、たとえば「お前が買うならどっちだ?」と訊ねられたりしたら、ちょっとばかり脂汗が出てきてしまいそうだ、というところだろう。もうちょっとしたらショールームに試乗車が配備されるだろうから、皆さんにもぜひ、その苦悩を味わってみて欲しい。


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嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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