東南アジアで存在感を示すも本国では苦境に
NETAのもうひとつの強みは、その意思決定スピードの速さにある。一般的な完成車メーカーであれば1か月かかるような判断も、NETAではわずか2〜3日で下されるとされており、経営陣の迅速な動きが製品開発や市場投入のスピードを大きく左右している。
そのスピード感は海外展開でも発揮されており、タイやマレーシアなどASEAN諸国ではすでにCKD(ノックダウン)生産を開始。右ハンドル市場への対応も進んでおり、競合に先んじて新興アジア市場でのプレゼンスを確保しつつあった。
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ETAの海外進出は、2022年9月、EV購入補助金を導入したタイに「NETA V」を輸出したことから始まった。タイでは2024年上半期の新エネルギー車部門で第3位にランクインし、BYDに次ぐ地位を確立した。現在はタイ、インドネシア、マレーシアなど東南アジアを中心に30カ国・地域に進出している。
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しかし、本国中国では状況が一変していた。2023年以降、テスラやBYDなど大手メーカーが大幅な値下げ攻勢をかけ、価格競争が激化。ローエンドとハイエンドの住みわけが崩れ、安さだけが売りのNETAは急速に競争力を失った。2023年の販売台数は前年比16%減の12万7500台に落ち込み、2024年も回復の兆しは見えなかった。
財務面でも深刻な状況が続いていた。2021年から2023年までの3年間で累計赤字は約184億元(約4050億円)に達し、売れば売るほど赤字が拡大する構造から抜け出せずにいた。サプライヤーへの未払いが表面化し、2025年3月には多数のサプライヤーが上海本社に押し寄せる事態に発展。さらに従業員への給与未払いも発生し、CEOが従業員に取り囲まれる異常事態まで起きていた。
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今回のトヨタによる買収報道は、こうした深刻な経営危機のなかで浮上した話だったのである。中国のEV市場はいまや戦国時代の様相を呈しており、最終的に生き残るブランドは10社程度という予測もある。際立った技術的な独自性をもたないNETAにとって、大手メーカーによる買収は数少ない生き残りの道だったのかもしれない。
しかし現実は、買収どころか破産一歩手前という状況であることが露呈した。トヨタにとっても、単なる生産能力の獲得だけでは中国EV市場での遅れを取り戻すことは難しく、より戦略的なパートナーシップが必要だろう。中国内および東南アジア諸国に販売網を持つNETAを手に入れれば、トヨタのEV販売戦略の足がかりになる可能性も考えられなくはない。
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しかしながら、万一破産した場合の既存ユーザーに対する保証やメンテナンスなどのアフターサービスを考えると、そう簡単に手出しできるものではない。これらの事実は価格競争だけでは生き残れない中国EV市場の過酷な現実を象徴するものだ。一筋縄ではいかないEV普及の難しさを物語っているともいえるのではないだろうか。