水素を燃料にすればクルマはエコってわけじゃない! 「グレー」「ブルー」「グリーン」と水素には3つの色が存在する (2/2ページ)

日本が進める水素製造技術の最前線

 日本は、2017年に世界に先駆けて「水素基本戦略」を策定し、水素関連技術の開発をリードしてきた。とくに注目されるのが、福島県浪江町に2020年3月に開所した「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」である。ここでは、世界有数の規模を誇る水電解装置を使用し、太陽光発電などの再生可能エネルギーから大規模にグリーン水素を製造する実証実験が進められている。

 この施設の特徴は、単に水素を製造するだけでなく、「エネルギーマネジメントシステム」の実証も行っている点にある。電力の需給バランスに応じて水電解装置の稼働を最適化することで、効率的な水素製造を実現しようとしている。これは、天候に左右される再生可能エネルギーの変動を吸収し、エネルギーシステム全体の安定化にも貢献する画期的な取り組みである。

 水電解装置についても、日本では複数の方式の開発が並行して進められている。福島で使用されているアルカリ型水電解装置は、強アルカリ溶液を使用する方式で、コストや稼働時間の面で優れている。

 一方、山梨県甲府市では固体高分子(PEM)型水電解装置の実証が行われており、こちらは再生可能エネルギーの発電出力の変動にすばやく対応できる柔軟性やコンパクト化の面で優位性があるが、材料コストや耐久性が課題だ。さらに、より高効率な固体酸化物型水電解(SOEC)装置の開発も、まだ商用化には至っていないにせよ、実証試験が進んでいる。

 グリーンイノベーション基金を活用した技術開発では、水電解装置のコストを現在の最大6分の1程度まで低減することをめざしている。そのために、装置の大型化や新素材の導入などが進められている。これらの取り組みは、将来的なグリーン水素の大量生産とコスト削減に向けた重要な一歩となっている。

 持続可能な社会をめざす流れのなかで、「エネルギーの脱炭素化」は避けてとおれない課題だ。その象徴ともいえるのが、水素製造における環境負荷の違いが明確に「グレー」「ブルー」「グリーン」と色分けされた現状だ。日本はもとより世界各国が2050年カーボンニュートラルをゴールとするなか、水素社会の実現とその普及スピードは、いかにグリーン水素中心の製造体制へとシフトできるかにかかっている。

 現段階では、依然としてグレー水素が主流であり、コストや既存インフラとの親和性の高さから、ブルー水素が現実解として一定の役割を果たしている。しかし、政府や産業界は、再生可能エネルギーの拡大とともに、グリーン水素の量産化・低コスト化を進める動きに力を入れている。

 私たちクルマ好きにとって、この水素の出自は「自動車の未来」を考えるうえでも非常に興味深いポイントといえる。なぜならFCVや水素エンジン車の本当の意味でのエコ性能は、「どんな水素を使っているか」に左右されるからである。

 同じFCVや水素エンジン車でも、グレー水素を使って走れば実質的なCO2削減効果は限定的であり、逆にグリーン水素を使えば限りなくCO2排出ゼロに近づく。環境性能だけでなく、エネルギー安全保障やエネルギーコストといった社会的背景も複雑に絡み合うテーマだが、愛車の「エコ度」を語るうえでもこうした水素のカラーバリエーションは知っておくべきだ。

 水素社会の実現はまだ道なかばであるが、再エネ由来のグリーン水素が普及する未来は確実に近づいている。今後も水素製造技術や関連インフラの進化に注目しつつ、私たちの生活や愛車がどんなかたちで「クリーンな水素」と結びついていくのか、常にアンテナを張っておきたい。水素の「グレー」「ブルー」「グリーン」には、単なる色以上の意味が隠されているのである。


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