ラリージャパンには完璧なコンディションで挑みたい
──ところで2週間前のエストニアと今回のフィンランドは似たような高速グラベルラリーでしたが、エストニアでは勝田選手を含めたトヨタ勢は苦戦を強いられて、フィンランドではそれとは真逆の好調ぶりでした。セットアップを変えたということでしたが、何が1番大きかったんでしょうか?
勝田選手:エストニアとフィンランドは同じ高速ラリーとはいえ、クルマに対して求めるものが変わってきます。エストニアは平らになっているんですけど、フィンランドはキャンバーがかかっているコーナーがあったり、オフキャンバーになっているコーナーがあったりで、“かまぼこ状”になっている道が非常に多い。そのため、フィンランドではクルマに対する柔軟性をアジャストしないといけないので、その部分が難しい。
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逆にいうとエストニアでダメだったセットアップでも、フィンランドだったらなんとかなる……という感じが見えたので、フィンランドではリヤの柔軟性を増やした結果、トラクションを得ることができたし、かつハイスピードでのサポートも得ることができたのでいいタイムに繋げることができたと思います。
それでもペース的にはヒョンデに勝っているとは思っていなくて、ピュアなスピードだけの部分では、まだヤバいな……という危機感をもっているので、集中して改善していきたいと思っています。
──最終日にトヨタ勢が上位を独占するなか、2回のSSでタイム争いをしていましたが、なにか事前にチーム代表代行のユハ・カンクネン氏よりアドバイスはあったんでしょうか?
勝田選手:ユハさんは基本的に僕たちを信頼してくれているので、とくに“どうしろ”といった指示はなく、“よかったよ”とか、“無理しなくて大丈夫だよ”といった声をかけてくれています。どちらかというと、寛大に見守っている感じで、チームオーダーはありませんでした。
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──セカンドホームと語っているように、勝田選手にとってフィンランドは特別な場所だと思いますが、フィンランドに来て、街や人からエネルギーをもらうような出来事はありましたか?
勝田選手:いまはもうユバスキュラに住んでいないんですけど、それでもフィンランドのファンは自分をフィンランド人ドライバーと同じように扱ってくれる。表彰台やロードセクションなど、いろんな場面でホームと感じられるほど多くの人が応援してくれる。そこは自分でもびっくりしています。僕は日本人ですけど、ラリーのキャリアに関してはフィンランドですべてを学んできたといっても過言ではないと思っているので、そのフィンランドの地でラリーファンが応援してくれえているので、それをいい結果で返せるようにしたい。
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今回は地元のフィンランドのヒーローであるカッレが、ホームイベントで初優勝ということで、フィンランドのラリーファンにとっては嬉しいことだと思うんですけど、その次の2位でフィニッシュできたので、僕としても嬉しいし、ファンも喜んでくれたと思います。
──前戦のエストニアで最終ステージを前にリタイヤしていたと思いますが、それは今回のフィンランドを意識した戦略的なものだったのでしょうか?
勝田選手:エストニアでは、シェイクダウンで2番手タイムでしたし、フィーリングも悪くはなかったんですけど、データで見たときにエンジンが伸びていない部分がありました。土曜日になってエンジンの調子が悪くなってきて、フィーリングとして現れるようになってきました。現在、WRCは1年間に2基のエンジンをローテーションしているんですけど、レギュレーションの都合でパワーステージを出走してしまうと、次に新しいエンジンを搭載できない……という特殊な事情もあって、最終のパワーステージを走る前にリタイヤをしました。
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と、いっても、ドライバーではなく、クルマに対してエンジンが2基付属するので、新しいエンジンを乗せた3台目のクルマは今回、セブが乗っていて、僕のクルマに新しいエンジンが乗っていたわけではありません。
──ロバンペラ選手と表彰台に上がりたい……といっていましたが、なにか理由があるんでしょうか?
勝田選手:僕とカッレはプライベートですごく仲がいいですし、フィンランドは彼のホームイベントであり、僕のセカンドホームイベントでもあるので、今年こそはふたりで表彰台にあがりたいと思っていました。
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──今年からRally1カーにハイブリッドがなくなったり、タイヤのサプライヤーがハンコックになったりと大きく変わりましたが、そのあたりで苦労していることはありますか?
勝田選手:ハイブリッドがなくなったことについては、あまり悪い影響はないですね。むしろ、ドライビングがラクになりましたが、それ以上にタイヤが変わったことが大きくて、そのあたりはトヨタだけでなく全チームが苦労していると思います。グラベルにおいても昨年までとフィーリングが違うので、セットアップも違いますし、ドライビングにおいても意識する部分が変わっている。ハンコックは横に使える割合が少ないような印象で、縦に使わないといけないイメージですから、そのあたりの部分がセットアップを含めて難しいです。
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──これまで2位は何度か取られましたので、あとは優勝だけだと思うんですが、勝つために足りない部分はあるんでしょうか?
勝田選手:同じ2位でも内容は違っていて、今回のフィンランドよりスウェーデンのほうがまだ勝てる可能性が高かったんですけど、足りないものだったり、こうすべきだったというポイントはそのときどきで違ってきます。いずれにしても安定して速さをキープしながらうまく駆け引きしていくことが重要です。今回のカッレがそうだったように高いパフォーマンスでクルマに自信をもって走ることができれば、ギャップをうまく作れて、それを活用しながらコントロールすることができると思う。
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そういった状況を作りたいんですけど、4人のワールドチャンピオン(ロバンペラ/オジエ/オイット・タナック/ティエリー・ヌービル)とチャンピオンシップをリードしているエルフィンがいるので、簡単ではない。それでも、それを続けていくことが最優先事項で、それを続けていくなかで勝てるチャンスが来たときに取りにいきたいと思います。
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──今回のラリー・フィンランドでは、WRCチャレンジプログラムの2期生である山本雄紀選手がWRC2クラスで自己最高位となる5位でフィニッシュしたほか、前回のラリー・エストニアでは3期生の松下拓未選手がWRC3クラスで優勝を飾るなど、後輩たちが活躍していますが、その成長をどのように見ていますか?
勝田選手:まず2期生の山本選手ですが、経験不足から自信をもてない部分もあったと思うんですけど、このハイスピードラリーで彼がもっているスピードを示してトップタイムを出せたことは本人の自信につながると思います。自分の経験から話すと、そういった自信があると焦ることもなくなってくるし、自分に必要なものを、ステップを踏みながら補っていけると思うので、山本選手にとってはいいラリーになったと思います。また、3期生の松下選手もエストニアでクラス優勝しましたよね。
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もうひとりの3期生である後藤正太郎選手もリタイヤに終わりましたが、ベストタイムをマークしていました。3期生のふたりはものすごくいいスピードをもっているし、すごく成長しているので、僕もワクワクするような感じで見てきました。いまの成長曲線でやっていけば、短い期間でいいところにいけると思うので僕も楽しみに見ていますし、彼らにタスキを繋げられるように僕もしっかり結果を出してその道を切り開いていきたい。うまく噛み合ってくればトップカテゴリーで一緒に戦うことができると思いますので、それを期待したいと思います。
──ちょっと早いのですが、ラリー・ジャパンへの意気込みをお願いします。
勝田選手:まだまだグラベル連戦が残っていますし、セントラルヨーロピアンラリーという、ジャパンとは違ったタイプのターマック戦がありますが、今年の状況を見ているとタイヤ特性の違いが重要です。いままでのセットアップを活用できる部分が少ないので、テストでいいところを見つけていきたい。
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いままでなら絶対にないと思っていた方向でも試していくことで、新しい方向性を見つけられると思うので、そこに集中してラリー・ジャパンにいい状態のクルマをもっていきたい。昨年の大会ではそれができなかったんですけど、まずはコンディションを整えて、優勝を目指して走り切りたいと思います。
以上、勝田選手はいろんな質問に回答してくれたが、パラグアイとチリといった南米ラウンドに加えて、ドイツ、チェコ、オーストリアを舞台にしたセントラル・ヨーロピアン・ラリーなどハードなラウンドが残っているだけに、今後も勝田選手の躍進、そして11月6〜9日に愛知県・岐阜県で開催される第13戦のラリー・ジャパンでは悲願の初優勝に期待したい。