上質な乗り心地とハンドリング
DS N°8がドライバーズカーであることを象徴するディティールのひとつに、X型ステアリングホイールが挙げられる。クルー・ド・パリ模様も施され、一見すると奇抜なようだが、じつはヴォワザンやアミルカー、ブガッティなど戦前のフランス製スポーツカーもしくはハイエンドGTでは、X型はよくあるカタチだった。
実際に握ると、驚くほど扱いやすく手に馴染む。10時10分のポジションでは親指をスポークに軽く掛けられるし、9時15分のポジションではステアリングの緩やかなグリップが指の腹に心地よく当たる。しかもXの左右にはコントロールボタンが集中していて、裏側には回生ブレーキを3段階で調整できるパドルがある。
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視覚上は大胆でも、操作性はよく練られているのだ。ちなみに回生モードを最強にすれば、ワンペダルで完全停止までもっていけるが、このモードだけはセンターコンソール上の物理スイッチで切り替える。隣にはドライビングモ―ドの切替ボタンも備わり、とてもロジカルでわかりやすいインターフェイスではある。
コクピットまわりは、ステアリングの向こうに12.25インチのメーターパネル+ヘッドアップディスプレイ、中央には16インチワイドのタッチスクリーンがシームレスに配置されている。ダッシュボードのアンビエントライトや、一見アールデコのような放射状のラインをあしらったガラスルーフなど、モダンだがデカダンな雰囲気はこのクルマならではのものだ。
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動力性能はわかりやすい派手なスペックを最初から追わない、持続性というかフランス流の質実剛健に重きがある。試乗したFWDロングレンジ仕様のバッテリー容量は97.2kWh、最大トルクと出力は343Nm・245馬力、0-100km/h加速は7.8秒と、昨今のBEVのスペックとしては控え目を通り越してアンダー気味ですらある。
しかしDS N°8はWLTP基準で最大750kmもの航続距離を謳う。実際にゼロ発進からアクセルを踏み込んでも、爆発的に加速する訳ではない。だが、2.1トン強の車体をスムースに運ぶ加速感は、数値以上に上質さを感じさせる。電気のトルクはそもそも安定して力強いので、息の長い加速アウトプットに変換されたら、むしろリニアな伸び方がアナログ的に感じられるのだ。
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ちなみにAWD仕様では509Nm・ 350馬力に、0-100km/h加速は5.4秒。とはいえ、やはり瞬発力やアドレナリンより、余裕や息の長いパフォーマンスに重きが置かれている。
だが、もっと驚かされるというか独自の主張を感じるのは、ハンドリングと乗り心地だ。ステアリングを切ると半拍の間を置いてノーズが素直に反応し、2900㎜というなかなかのロングホイールベースのFFでありながら、後車軸側のサスペンションも適度に素早く追従してくる。2トンを超える重量級EVであるにもかかわらず、ワインディングで鈍重さは一切ない。身のこなしが驚くほどニュートラルでスポーティに走らせるのが楽しく、それでいて過度なトルクステアを感じさせない、質の高いハンドリングなのだ。
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そこに加えて、DSアクティブスキャンサスペンションが前方の路面を読み取っては減衰力を絶えず瞬時に調整しつづけることで、DS N°8は21インチの大径ホイールを履きながらも、滑らかなフラットライドを味あわせる。確かに低重心だが、小刻みなピッチングに終始悩まされがちな腹重BEVと明らかに一線を画しているのだ。BEVでこれだけしっとりしたしなやかな乗り味は、貴重でさえある。
しかもアコースティックガラスや多層構造の遮音材によって、外部の高周波・中周波ノイズを徹底して遮断する。無音の世界ではなく、会話や音楽が心地よく響く「質の高い静けさ」なのだ。14個のスピーカーを備えたフォーカル・エレクトラ3Dオーディオシステムも、音場の広がりと繊細さを両立させつつ、静粛性の高いキャビンと響き合う。
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スポーティでありながら優雅、力強くありながら静かという、DSの掲げる「ダイナミック・セレニティ(動的な静謐)」というコンセプトが、かくして像を結ぶ。市場での地位を築くにはまだ道半ばだが、N°8が放つ独自の調律と存在感はフランス車なればこそ。新しい電動化プレミアムのカタチを見事に示してきた。