この記事をまとめると
■フォルクスワーゲンID.BUZZの試乗会が湘南で行われた
■ID.BUZZはキビキビ走ってもゆっくり流しても気もちよいフォルクスワーゲンらしい仕上がり
■高級ミニバンとは異なるワークスタイルから生まれたID.BUZZの「無骨な魅力」に感動
タイプ2的スタイルを懐かしむ趣味人以外にも好評
ようやく残暑が緩みかけた10月初旬、フォルクスワーゲン グループ ジャパンが「ID.BUZZ」のプレス向け試乗会を湘南で開催した。
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ID. BUZZには個人的にプチ思い入れがあった。7年前、2018年のロサンゼルス・オートショーで、VWがパイクスピークにEVレーシングカーで挑むから、そのレース・サービスカーという触れ込みで仕上げられたプロトタイプのID.Buzzバン仕様を、会場で目にした。
すると翌日、ヴェニスビーチを観光していたら、そのもののクルマが目の前に現れたのだ。アメリカのデジタル系メディアが動画撮影していたのだが、もう自走でそんな場所に来られる完成度だったことに驚いた。プラス、そのオーラというか空気感が、ひれ伏したくなるほどカッコよかった。初めて訪れたLAでそんな光景を見せられた日には、そりゃあインプリントされてしまう。
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そもそもワーゲンバス、いわゆるタイプ2復活の試みは、2001年のマイクロバス、2011年のニュー・ブリー、そして2017年のID.BUZZコンセプトと、パイクカー次いでミニバンブームのときにやってきて、ID.BUZZはBEV時代のモメンタムを利して3度目の正直ともいえる。あの年のLAオートショーでは、「ホットVWs」というオールドVW専門誌の呼びかけで、タイプ1をはじめ古いVWが沢山、会場入口のスペースで来場者を迎えていた。
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例のディーゼルゲート事件の余韻がようやく落ち着き始めたころで、カリフォルニアとVWのラブ・ストーリーを思い出してほしいというVWアメリカの意向・依頼を受けて実施したと、ホットVWsの編集長をしている昔の同僚であるナベちゃんに聞いたのだった。
7年前、つまりBEVに前のめりになるVWの事情が痛いほど察せられた時代から、ID. BUZZとして市販版が日本に上陸するまでそれでも7年かかったが、まずは日本で市販化されたことにホッとしたい。あと久々の再会ながら、インアンドアウトバーガーのランチで満足していた自分たちの安上がりっぷりにもいまさら驚く。
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話が大きく逸れたが、このたび日本に導入されたのはパネルバン仕様ではなくサイドならびにリヤウインドウはガラスのミニバン仕様で、ホイールベース2990mmのNWB(ノーマルホイールベース)・6人乗り仕様と、3240mmのLWB(ロングホイールベース)・7人乗り仕様、いずれも「ID. Buzz Pro(アイディーバズプロ)」と、スマホのような接尾辞がモデル名に付く。
全幅1985×全高1925mmは共通で、それぞれ全長4715mmと全長4965mmなので、25cm違う。横幅は確かに広いが、VWの商用車部門で生産されるバンであることを思えば、いずれもショートサイズだ。
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というのも欧州の商用車は、ショートボディが5m前後で、あとは約50cm刻みでミドル、セミロング、ロングと長くなっていく。高さも6~7cm刻みでH1/H2/H3と用途に応じたハイルーフが選べるので、ようは問題になるのはつねに室内長と室内高、なのだ。デカいと誤解され、カラフルなツートンカラーの外装やシート内装からは、意外ながら商用車としてID. BUZZは本質をまったく曲げていない。
以前ならドイツ車はわりとレトロに忠実で、ID.BUZZが丸目ライトでないのは不思議という見方もあるようだが、マトリクスLEDの実用性を脇に置いても、この流し目のほうがいいと個人的に思う。逆にフランス車辺りはレトロが禁じ手でアヴァンギャルドを演じねばならないのが定石だったが、近頃のBEVでは逆転して、ルノー5 E-TECHがヒットしているし、5ターボ3Eまで企画されているのだから、時代は変わったものだと思う。
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いずれにせよ、ID.Buzzはマジもんのワークスタイルだからこそ、ライフスタイルプロダクトたりうる。日本の軽がよくカタチだけ真似るフロントVパターンの、ホワイト&パステルカラーのツートンはさすが、本家の本歌どりだけにキマっているが、ツートンカラー自体が+24万2000円の有償オプションである点は、商用車らしさというか付加価値はエクステンション、そんな捉え方ではある。
1000万円クラスのミニバンということで、アルファード/ヴェルファイアのようなおもてなしを期待していると、肩透かしどころかカウンターパンチを喰らわされる。シートに腰を下ろして一番に気づくことは、色合い以外は触感も質感も囲まれ感も固めで、見事に商用バン然としているところだ。ドアパネルからダッシュボードまでハードプラスチック尽くしで、ピープルムーバーとしてカラーリングこそ乗用車風に仕立てられたものの、無骨であることを隠そうとしない。
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それでも6人以上を運べるBEVは貴重極まりない存在で、実際、日本で発売されて以来、タイプ2的スタイルを懐かしむ趣味人以外にも、自営業やホテルの送迎用途といった法人需要からのオーダーも少なくないとか。