バス運転士不足の解消には運転席まわりの環境改善も必要
路線バスは長距離を長時間続けて運転するような用途は想定していないといわれればそれまでだが、それでも事情があって休憩をはさみながら長距離を長時間路線バスで移動したひとに話を聞くと、「腰が砕けそうになった」とのことであった。ここまでの話は日系メーカーの路線バスの話となるのだが、メーカーというよりは事業者の間で座布団シートが継続して採用されるケースがまだまだ目立っている。
最近は中国や韓国からBEV(バッテリー電気自動車)路線バスが国内でもラインアップされ、実際に営業運行を行っている。それら外資系路線バスのシートを見ると、実際の座り心地性能は別としても、少なくともその形状を見る限り、座布団シートよりは快適な職場環境作りに尽力しているような印象を受ける。
韓国メーカーのバスの運転席画像はこちら
このようなことはタクシーでもたびたび課題となっていた。いまタクシー車両のメインはトヨタJPNタクシーとなっているが、新世代タクシー車両として登場したJPNタクシーでも「シートが狭い」といった不満は消えていないようである。
2014年に終売となったY31日産セドリックタクシーにかつて乗務していたひとによると、「新車として納車されてそれほど経たない段階でシートのへたりが目立ってきました。とくに座面のクッションがすぐぺちゃんこになりましたね。新車かどうかを問わず、最低でも座布団を座面に敷いて乗務している運転士ばかりでした。座布団を忘れてそのまま20時間ほど乗務したことがあるのですが、帰庫してクルマから降りようとしたら立つことができなかったことをいまも覚えています」と話してくれた。
トヨタJPNタクシーのシート画像はこちら
隔日勤務(連続20時間乗務)運転士はベテランほど腰痛もちが当たり前のようになっている。そのような運転士は、さらに本格的な腰痛対策のグッズをシートに備え付けて乗務していた。トヨタ・クラウンコンフォートのほうがまだマシだという話もあった。
本稿執筆のため、メーカーウェブサイトなどでバスやタクシーの商品ガイドやウエブカタログを見たのだが、気がついたのが運転席をはっきり掲載し、細かく解説しているところが見当たらなかったことだ。誰が買うのかとなれば、当然バスやタクシー事業者の経営者となるので運転実務は行わない。あくまで私見だが、乗客が安心してしかも快適に乗車できるような工夫といったところに主眼が置かれているように見えた。
運転士の仕事場である運転席まわりの環境改善が進んでいないところも、いまの働き手不足にボクシングのジャブのように効いているのかもしれない。