アクセルを踏んでないのにクルマが進む「クリープ現象」ってどういう仕組み? この「副産物」がじつは人間の感性にぴったりだった (2/2ページ)

クリープ現象は人間の思考にマッチした構造だ

 冒頭で触れた「理にかなっていなくても感性が合ってしまうと……」、という意味は、Dレンジにセレクトしておけばクルマが動くのは当然のことで、停車させておきたいのならPレンジかNレンジにセレクトしておくのが「理にかなった」停車方法となり、クルマが動くDレンジにセレクトしたままブレーキペダルで停車を保つ方式は、理にかなってはいないが、感性にあった停車方式ではあり、再度動き出す際にはブレーキペダルから足を放してアクセルを踏み込むだけでよい。

 しかも、トルクコンバーターは微細ながらエンジン出力を常にトランスミッションに伝えている状態にあるため、アクセルペダルを踏み込んでからの加速反応に遅れがない。これがPレンジやNレンジからの動き出しとなると、セレクターポジションを走行レンジに再シフトしてから(当然フットブレーキの操作も連動する)の加速となり、その反応にわずかな遅れが生じてしまう。ドライバー的にいえば「かったるい」ということになる。

 つまり、クリープ現象は、トルクコンバーター式ATと表裏一体となって生じる現象といえど、この動きを抑え込むブレーキペダルの踏み込みは、ドライバー感性としてごく自然な操作であり、AT車の運転に関して第2の本能ともいえる動きになっている。

 逆に、AT車の動き出しでクリープ現象に慣れたドライバーにとって、CVTのようにクリープ現象のない反応には違和感を覚え、CVTを嫌う要因にもなっていた。このため、CVTにトルクコンバーターを組み合わせて使う方式(理論上CVTにトルクコンバーターは必要ない)も実用化されたほどである。

 信号待ちのような短時間の停車状態を保つため、Dレンジにセレクトしたままフットブレーキを踏む運転操作は、一見すると機械の動きに反する不合理な運転操作のようにも思えるが、同じ状況でMT車を停車させる場合、ギヤはニュートラルでも不用意にクルマが動かないようフットブレーキに足を置くケースが多いのではなかろうか。この操作はAT車の場合と同じである。

 トルクコンバーターの特性を考え合わせれば、AT車で短時間の停車を行う場合、Dレンジにホールドしたままフットブレーキで停車を行う操作は、むしろ合理的な運転操作といえるかもしれない。AT車は、クリープ現象によってアイドリング状態でも少しずつクルマが動く特性を備えている。そして、AT車のドライバーは、無意識のうちにこの動きに対応した運転操作を行っている、ということになる。


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