この記事をまとめると
■現在の日本での前面衝突安全試験にはフルラップとオフセットの2種類がある
■運転席側を40%だけ当てるオフセット衝突は生存空間を脅かしやすい
■衝突実験ですべてがわかるわけではないが安全なクルマ選びの有力な判断軸のひとつとなる
想定する事故のパターンでテストも異なる
近年、自動車の衝突安全性が向上していることは知られている。いまだに「昔のクルマは少々のことではバンパーが凹むことなく丈夫だった」と主張する人もいるが、それは間違った認識だ。たしかに1970年代にアメリカで義務化された「5マイルバンパー」の装着車は、低速(8km/h程度)でのダメージを少なくするが、それは駐車場の速度域でぶつけたときに変形しないというレベルであって、実際の道路上で起きる事故被害を軽減するものとはいえない。
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クルマ好きであれば、昭和のクルマと令和のクルマがぶつかったとき、より乗員が守られるのは後者であることは認識しているだろう。実際、動画サイトなどで検索すると、同一車種の旧車(Old car)と現代車(Modern car)をぶつけた試験映像などが見つけられるが、キャビンの残り具合に圧倒的な違いがあることはひと目でわかるほど。
安全性についてはSRSエアバッグのような安全技術の進歩もあるが、衝突時のボディ変形具合に大きな違いが生まれたのは、衝突安全基準の高まりが影響している。日本においてターニングポイントとなったのは2007年だろう。
それまで衝突安全実験では、ボディ正面をまっすぐ障害物に当てる「フルラップ衝突」において乗員への衝撃が基準を満たすことが求められていた。2007年9月以降は、日本の安全基準においてボディの正面40%(運転席側)を障害物に当てる「オフセット衝突」試験が義務化された。
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フルラップとオフセットの衝突実験映像を検索すると、車体前面がグッチャリと潰れているフルラップ衝突のほうがダメージは大きいように思えるかもしれない。オフセット衝突であればぶつかっていない側のヘッドライトは無傷に近い状態で、原形を留めている印象も受ける。
しかし、オフセット衝突が実施されるようになった背景は、リアルワールドで真正面から当たる事故ケースばかりでないこともあるが、オフセット衝突は車体の変形が大きく、生存空間の確保に影響大だからである。
フルラップ衝突よりオフセット衝突のほうがAピラーの根元あたりの変形が大きく、すなわち乗員の脚部への攻撃性が増す。そもそも衝突エネルギーが一部に集中するということは、そのエリアに座っている乗員への衝撃も大きいということになる。運転席であればステアリングやダッシュボードがドライバーを襲うことになり、命にかかわる事故になりかねない。
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そうした課題への対応としてオフセット衝突基準は生まれている。