タイプRとはまた違った質の高い走り
極上個体という言葉がこれ以上ないほどぴったりくる5代目プレリュードに乗り込み、そっとキーをひねる。つかの間セルが唸ると、約30年前のクルマとは思えないほどあっけなくエンジンに火が入った。レストアというのは外見だけでなく、もちろん機関系にもしっかりと手が入っていることはいうまでもない。
走らせてまず感じたのが、エンジンの上質さだった。搭載されるのはDOHC VTECのH22A型。この個体はSiRグレードなので、そのアウトプットは最高出力200馬力を6800rpm、最大トルク22.5kgmを5500rpmで発生するものとなる。排気量は2.2リッターだから、1リッターあたりの出力は約93馬力。もちろん一般的な尺度からすれば十分な高性能エンジンではあるが、NAだろうとリッターあたり100馬力オーバーが平然と顔を揃えるホンダのVTECユニットとしては、スペックシート上では少し見劣りするのも事実だ。
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実際に走らせてみても、特別速いというわけではない。いや十分に速いのだが、プレリュードとH22Aエンジンの身上は、絶対的な速さではないだろう。バランサーシャフトが仕込まれ、ピストンまわりでも静粛性を追求した設計が行われたH22Aエンジンはとにかくスムース。それでいてエンジンの存在感ははっきりとあり、滑らかな回転フィールを楽しむことができる。
そして、VTECユニットらしくまわす楽しみもある。5500rpm付近でハイカムに切り替わると、そのサウンドははっきりと変化する。ハイカム領域のパンチこそ同時期のタイプRモデルなどに載るハイチューンなB型エンジンに譲るが、あちらが荒々しさを伴った唸りを上げるのに対して、プレリュードのH型はひたすら精緻な感覚を保ったままにレブリミットまで鮮やかに吹け切る。
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そのように鞭を打てばしっかりと応えてくれるエンジンが載ってはいるが、組み合わされる比較的ハイギヤードな5速MTのギヤレシオを見てもわかるように、やはり目を三角にして飛ばすクルマではないだろう。
足まわりには、前後ともにダブルウイッシュボーン方式が奢られる。リヤのゲインが敏感に立ち上がる4WSの性質を勘案してか、トーイン方向にあらかじめ振られたアライメントもあり、直進安定性はかなり高い。スペシャルティカーらしく高い静粛性をもったキャビンに身を委ね、豊満な低中速トルクに任せてゆったりと走る。運転していると、そんなスタイルに自然となっている。
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そうして5代目プレリュードを走らせていると、そのキャラクターが新型プレリュードのそれと相似しているように思えてならなかった。絶対的なスペックの数値こそ飛び抜けてはいないが、走らせると存外に快いパワートレイン。ロングランも苦にならない室内やシャシーの仕立て。かたやVTEC、かたやS+シフトという飛び道具。そして皮肉にも、5代目のときはDC2型インテグラタイプR、新型ではFL5型シビックタイプRという、同程度の価格帯で、より“わかりやすい魅力”を備えた身内のライバルがいる、というところまで……。
ひけらかすわけではないが、僕は新旧プレリュードにも、比較されてしまいがちなそれぞれのタイプRにも乗った。乗るまでもないとツッコミが入るかもしれないけれど、プレリュードとタイプRはまったく違う方向を向いたクルマで(現行モデルに関しては公式にも対極に位置するモデルだとされている)、それぞれに独自の魅力があった。
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だからこそというか、新型プレリュードとシビックタイプRを価格とかスペックだけで比較して判断する言説を目にすると、どうしても憂いの感情に沈んでしまう。月並みだが、ぜひとも一度乗ってみて、その上で新型プレリュードをジャッジしてみてほしいと切に思うばかりである。