日本メーカーのHEVと中国メーカーのBEVが鎬を削る タイにおける2025年1月から10月においてのEV(電動車)の販売状況をみると、HEV(ハイブリッド車)が11万7277台(前年同期比104..4%)となり、以下BEV9万6877台(前年同期比プラス163.7%)、PHEV(プラグインハイブリッド車)1万6424台(前年同期比203.2%)となっている。
少し前にHEVが急伸したタイ国内の新車市場だが、いまもそのトレンドは個人ユースレベルでは変わっていない。それでもBEVがよく売れているような統計数値が出ている背景には、いくつかの理由がある。
まずひとつはBEV購入の際のインセンティブが充実していることが挙げられる。政府の購入補助金のほか、販売促進のためにBEVを得意とする中国系メーカーが値引き(価格引き下げ)のほか、さまざまな購入特典を用意しており(中国系モデルならローン審査が通りやすいということもあるようだ)、同クラスHEVやガソリン車を買うよりは買い得感の高い環境が用意されているのである。
中国ブランドのEV 画像はこちら
そしてもうひとつは、タクシーやライドシェアといったフリート販売に中国系メーカーが積極的なことがある。2025年春にバンコクを訪れたとき、中国・広州汽車系のBEVブランドであるAIONのESというセダンタイプのBEVタクシーしか走っていなかったのだが、今回バンコクを訪れるとMPVタイプBEVとなる、AION Yのタクシーも多数走っていた。バンコク首都圏ではタクシー車両のBEV化が強制力はないようだが普及のペースが早い印象だ。
AION Y 画像はこちら
そのほかの中国系ブランド複数も、タクシー車両の供給を行っている。さらにライドシェアドライバーへも、割安なリースプランで乗ってもらえることもあるので、BEVの販売台数にはフリート販売がかなり影響を与えているとみていいだろう。
市場全体の冷え込みが続くなか、BEVやPHEV販売の急伸ぶりは懐疑的に見ていいだろう。新車販売市場全体の様子を照らしてもHEVの2024年比での増加率が健全的な数値と見たほうがよさそうだ。
HEVはタイで高い販売シェアを誇る日系ブランドのなかでも、とくに高いシェアを誇るトヨタが先駆者であり、その技術レベルは世界で高い評価を受けている。BEVは中国系だから、タイだからと地域を限定することなく、残念ながら再販価値の下落の早さがアキレス腱のひとつとなっている。一方のタイだけで見てもそもそも再販価値の高い日系ブランド車が得意とする日系HEVは再販価値も高く、BEVからの乗り換えも多いと聞く。
トヨタ・ヤリスクロス 画像はこちら
タイ政府がZEV(ゼロエミッション)車に注目したのは、大気汚染や原油輸入量の削減などが主たる目的なので、普及スピードを考えればHEVでも十分効果ありと、HEVに注目するようになっているし、これはインドネシアでも同じような動きが見られる。
2025年春に開催されたバンコクモーターショーと比べても今回のモーターエキスポの会場を見渡すと、日系HEV vs 中国系BEVというような表現もできるものの、以前よりHEVの存在感が目立って強くなっているように見えた。後発ながらBEVでタイ市場に攻勢を仕掛けていたジーリーも、今回のモーターエキスポではHEVを発表してきている。
バンコクモーターエキスポ2025のジーリーブース 画像はこちら
売れているとはいえ、投げ売りに近く見える乱売状況では、HEVも含めやや沈静化しているICE(内燃機関車)車のラインアップを増やしていくのもやむなしとなっているようである。ただ日系ブランドは、トヨタやホンダを中心にフルラインアップHEVみたいな動きを見せているので、HEVでは日系先行という様子がますます鮮明化してきているようにも見える。