この記事をまとめると
■オーストラリアにてスズキ・フロンクスの衝突試験で不具合が確認され最低評価となった
■日本のJNCAPでは同条件の試験でも問題は発生せず比較的高い評価を得ている
■今後の公式説明が注目されるところだ
市場によって安全性能の評価基準は異なる
新車の安全性能を評価する基準として、「NCAP」(New Car Assessment Program)というプログラムがある。日本ではJNCAP、欧州ではEuro NCAPというように、市場によって交通事情や交通事故発生状況を考慮したそれぞれのNCAPが存在し、それらを国際団体であるGlobal NCAPが統括するという構造がとられている。
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先日、オーストラリアのNCAPであるANCAPによって、興味深い情報が公開された。スズキのコンパクトSUV、フロンクスのフルラップ前面衝突試験中に、シートベルト巻き取り装置に問題が発生したことによって後部座席のダミーの拘束が解除され、ダミーがフロントシート後部に衝突したというのだ。そして、ANCAPは全体的な衝突性能を見て、フロンクスの総合評価を5段階中最低評価の星ひとつとしている。
ANCAPはさらに、不具合が是正されるまではフロンクスの後部座席に乗員を乗せるべきではないと主張している。現地メディアによれば、これを受けてオーストラリアではフロンクスの販売が一時的に停止され、リコールが届けられているという。
ANCAPによるスズキ・フロンクスのテスト結果画像はこちら
フロンクスといえば、日本国内でも販売されるグローバルモデルだ。では、日本のJNCAPではフロンクスの安全性能をどう評価しているのだろうか。JNCAPのホームページを参照すると、こちらはBランクということで、5段階評価のうちの上から2段階目と高い評価だった。
ANCAPで問題が発生したとされるフルラップ前面衝突試験の結果詳細を見ても、胸部保護の項目こそ得点が低いものの、助手席側後席全体では5段階中の真ん中と、トータルで特段低い評価を受けているわけではない。
JNCAPによるスズキ・フロンクスのフルラップ前面衝突試験 助手席側後席詳細画像はこちら
ちなみに、ANCAPとJNCAPでフルラップ前面衝突試験の衝突車速は時速50km/hと同一となる(JNCAPでは以前は55km/hだったが、2024年度より50km/hに改訂された)。それぞれの試験映像を比較すると、ANCAPの公開している映像では声明どおり後部ダミーが前席後部に衝突しているが、JNCAPが公開している映像では前席への衝突は起きておらず、衝突後席乗員の拘束が解除されているようにも見えない。構造的問題なのか製造時に生じた品質上の問題なのか、これだけをもって判別することは難しい。
JNCAPによるスズキ・フロンクスのフルラップ前面衝突試験映像画像はこちら
なお、JNCAPに基づいて試験を実施している日本自動車事故対策機構(NASVA)のホームページには、各NCAPごとで評価項目や試験方法も変わってくるため、異なるNCAPの結果を単純比較することはできない、との記載がされている。だが、まったく同一ではないにせよ、極めて近いテスト内容であるにもかかわらずここまで評価に差が生まれるというのは、看過できないユーザーも多いだろう。
2025年12月25日時点では、日本においてはスズキからもNASVAからも今回の件に関する声明は出ていない。今後の動向が気がかりなところである。