この記事をまとめると
■ブガッティがたったひとりの女性のためのワンオフカーを製作した
■W16ミストラル・キャロラインは花のもつ儚い美しさをイメージした
■1600馬力で最高速度450km/hという狂気的な性能とのギャップが衝撃的だ
ブガッティの女性専用ワンオフカー「キャロライン」
かつて日本でも女性に向けた特別仕様車が企画され、自動車メーカーから販売されたことがあった。それらは意匠を丸っこいかわいいものに変更していたり、ボディカラーに赤やピンクやパステルカラーを設定していたり、ミラーや収納などの装備を充実させていたり、はたまた女性に人気のキャラクターをモチーフにして仕上げていたりと、なかなか迷走していたように思う。コンプラが厳しくなって「女性仕様」と大っぴらに謳うことが厳しくなったからか、それともそもそも期待していたほど売れなかったからなのか、現在ではほとんど「女性仕様車」を見かけることはなくなってしまった。
しかし、ブガッティがやってくれた。もしもブガッティが女性向けの特別仕様車を製作したら……と、そんな想像をかきたててくれるようなモデルが発表されたのだ。それこそ「W16ミストラル・キャロライン」。ただし、最初に断っておくが、キャロラインは、厳密には女性向け特別仕様車ではない。ブガッティの長年の顧客が、愛娘のために特別な仕様をオーダーしたワンオフカーとなっている。
ブガッティW16ミストラル・キャロラインのフロントスタイリング画像はこちら
さて、キャロラインのベースとなったのは、W16ミストラル。ブガッティが誇るW16エンジン時代の最後を飾る超弩級のハイパフォーマンスなオープントップモデルであり、圧倒的な性能と存在感を備える。しかし、このキャロラインは、まったく異なる方向性——それはすなわち「優雅さ」「繊細さ」「女性的な美しさ」を徹底的に追求している。
デザインの出発点は、花のもつ儚くも美しいイメージだった。つまり、このクルマは速く走ることを目的としたのではなく、娘という存在そのものをクルマという形で表現したかったのだという。そしてそれは、ブガッティのビスポーク部門「Sur Mesure(シュール・ムジュール)」により、抽象的なイメージが徹底的に具現化されていった。
ブガッティW16ミストラル・キャロラインのリヤスタイリング画像はこちら
外装で目を引くのは、特別に調合されたラベンダー色だ。南フランス・プロヴァンス地方のラベンダー畑からインスピレーションを得たこの色は、青みと赤みが光の加減で揺らぐ繊細なトーンを持つ。そしてこの色味こそが「女性らしさ」を象徴する最大のポイントなのだとか。派手さや力強さではなく、やわらかく、上品で、見る角度によって表情を変える奥ゆかしさといえばいいだろうか。それは従来のハイパーカーには見られなかったアプローチだ。
さらに、このクルマのもうひとつの特徴が、随所に散りばめられたフローラルのモチーフだ。象徴的なのはリヤウイングで、エアブレーキとして機能するこのパーツには、リラやアイリスを思わせる花々がハンドペイントで描かれた。しかも、単なる装飾としてではなく、何層にも塗り重ねられた緻密な工程により、奥行きと生命感を感じさせる仕上がりとなっている。そしてその中心には「Caroline」の文字が刻まれる。
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室内に目を移すと、その世界観はさらに鮮明となる。ホワイトとダークトーンを基調にしたレザーに、バイオレットのアクセントが加えられた空間は、まるでオートクチュールのドレスのような仕立てだ。とくに注目すべきは、ヘッドレストやドアパネルに施された刺繍。何千本もの糸を使ったそれは、花びらの重なりや陰影まで表現し、通常のクルマの内装とは一線を画す芸術性をもっている。ドアパネルにも花びらが風に舞うような動きが刺繍で表現されており、まるでそこには生命感が与えられているかのようだ。
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これらの結果により完成したのが、1600馬力級で最高速度450km/h超という狂気的な性能を有していながら、花や色彩や刺繍によって「女性的な美」が表現されたキャロラインなのだ。
かつて日本で企画された女性向けの特別仕様車のなかには、プロジェクトリーダーとなったオジさんの考えた「女性らしさ」が具現化され、それがことごとく女性に刺さらず空まわりしたものもあったと聞く。ベースモデルの価格が500万ドル(約8億円)であるキャロラインは、一説によると1000万ドル(約16億円)を超えている可能性もあるという。はたして、「W16ミストラル・キャロライン」が贈られた愛娘は、このクルマを気に入ったのだろうか。それだけが気になってしょうがない。