この記事をまとめると
■移動販売車は「買いもの難民」対策として再評価され全国で役割が拡大中
■高齢者の見守りや地域交流の場として社会的価値も高まっている
■将来は無人化や多機能化で地域インフラとして進化が期待される
移動販売が地域インフラへと進化する
昭和の時代、住宅街に響いた豆腐屋のラッパの音や軽トラックから流れる竿竹売りの声。あるいは、焼き芋の「ピー」という甲高い笛やラーメン屋台のオヤジが吹くチャルメラなど、移動販売は日常風景の一部であったといってよい。これらは法律・実店舗・通信販売などに押されて瞬く間に数を減らし、一時は絶滅危惧種になりつつあった。ところが、ここ10年ほどの間に、地域社会に貢献する重要な役割を担い、形を変えて復活しつつあるという。
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その背景には、地方の過疎化と都市部の高齢化という二極化する課題があるのだ。経済産業省の推計によれば、自宅から店舗へのアクセスが困難な「買いもの難民」は、全国に約700万人存在するという。これに対応するべく、大手コンビニチェーンやスーパーが移動販売に参入。冷蔵・冷凍機能を備えた特装車両を導入したことで、生鮮食品も品質を保持した状態で販売が可能になったのだ。
移動販売を評価するには、メリットとデメリットを理解する必要がある。メリットとしては、
・利便性の極大化:玄関先まで店舗がやってくるため、外出困難者にとっての心理的・肉体的負担が低減する
・出店コストが低い:実店舗に比べて地代や光熱費を抑えつつ、需要のある場所へ機動的に移動が可能
・双方向のコミュニケーション:対面販売により、地域のニーズを直接汲み取ることができる
などが挙げられる。これに対してデメリットは、
・商品積載量の限界:物理的なスペースが限られるため、品揃えや商品量が実店舗に及ばない
・天候と維持費:悪天候時には稼働が制限されるほか、燃料費の高騰・販売量に対する人件費や車両のメンテナンスコストが収益を圧迫する
などといったことがある。
移動販売は、物販以外に意外な付加価値を見込むことができる。なかでも、高齢者に対する見守り機能は、自治体などもその効果に期待をしているのだ。なぜなら、販売員が定期的に訪問することで、異変(新聞・郵便物・宅配便などの滞留、顔色や体調の異変など)を察知し、自治体や警察と連携するネットワークが構築できるからだ。
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いっぽう、移動販売車が到着すると近隣住民が集まり、コミュニティを形成する場ができる。希薄化した地域コミュニティを再構成するハブとしての役割が、孤独死防止や精神的な健康維持などに貢献すると期待がもたれているのだ。こういった付加価値は、なにも地方の過疎地だけを対象にしたものではない。都市部でも丘の上にある団地などでは、同様の問題を抱えているところも少なくないのだ。
移動販売は今後、さらなるテクノロジーの融合へと向かうだろう。たとえば、ドライバー不足解消のために特定ルートを巡回する無人移動販売車の開発が進められている。また、商品の販売と同時に宅配便の受け取り・行政手続きの代行・簡易診療を行うなど、「動く多目的拠点」としても期待されているのだ。
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さらに、BEV(電気自動車)を使用した移動販売車なら相応の電源供給能力をもつので、災害時には非常用電源車として利用することも可能になるだろう。このように、移動販売はもはや単に商品を販売するだけのものではない。クルマという移動体を利用し、社会インフラの一部として人々の暮らしを守るシステムに進化しつつあるのだ。