トレッド/ホイールベース”1:1.6″の黄金比率
前後トレッド幅(左右輪接地中心の間隔)は、クルマが旋回時に傾こうとする力=ロールモーメントを支える”土台”と言える。広いほど安定し、狭いと不安定になる。
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ここで重要なのは前後トレッドのバランスである。前輪より後輪が広いとリヤが踏ん張ってオーバーステアが抑制される。一方、前輪が広ければ初期応答は鋭くなるが、限界域ではリヤが安定性を失いやすい。
後輪を駆動するハイパフォーマンスモデルの多くはリヤ側をワイドに設定する傾向がある。たとえば、500馬力を超える強大なパワーを後輪2輪で駆動するようなスーパーカーのリヤトレッドが際立って広いのは、エンジントルクを確実に路面へ伝えるためでもある。
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ただし、トレッドを広げれば必ず安定するというのは誤りで、実際にはサスペンション剛性やタイヤ特性、サスペンションシステムと組み合わせて設計されており、バランスを崩せば逆にピーキーな挙動にもなり得るのである。
「トレッド値とホイールベース値の比率は1:1.6であることが理想的」という説を耳にした読者もいるかもしれない。確かにこの比率は古典的な設計指針として存在したが、現代のスポーツカーにおいては必ずしも絶対的な基準ではない。1973年に登場した三菱自動車のギャランクーペFTOは、トレッド/ホイールベース比が黄金比であることを謳い、アジリティの高さを特徴としていた。しかし、操縦性は比率だけで語れるものではないのだ。
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現在ではシャシー剛性やサスペンションの設計のほうが、より重要なことがわかっている。重要なのは、トレッドとホイールベースの絶対値のバランスを、車両重量や駆動方式に応じてどのように最適化するか、という点にある。
敏捷性と旋回性能の要は前後オーバーハング
さらに運動性能面おいて重視されるのがオーバーハングだ。前輪中心からバンパー先端まで、また後輪中心からリヤ端までの距離を指し、俊敏な身のこなしが求められるスポーツカーではこの長さをいかに短縮するかが課題となる。
オーバーハングが長いと旋回時に不要な慣性モーメントが発生し、操舵応答性が鈍くなる。ミドシップのスポーツカーが前後オーバーハングを極端に切り詰めるのは、重量物をホイールベース内に収めて回頭性を高めるのが目的である。
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ただしオーバーハングを詰めすぎると、今度はクラッシャブルゾーンが不足し、安全性やデザインの自由度に制約が生じてしまう。
ディメンションは単なる数値ではなく、そのクルマがどう走るかを示す設計思想の一端と言っていい。全長、全幅、全高はもちろん、ホイールベースやトレッド、オーバーハングに至るすべてが運動性能と直結している。しかも、「短ければいい」、「広ければ安定する」といった単純な図式で語れるものではなく、すべてはバランスの問題だ。
重心位置の重要性については、もはや説明の必要はないだろう。
諸元表に重心位置が示されることはないが、停止状態での重心位置と、走行中の重心移動域が球状に示されていれば、そのクルマの挙動特性を知る大きなヒントになる。また重心を通るロールセンター(X軸)、ピッチングセンター(Y軸)、ヨー軸(Z軸)なども稼働域とともに示されれば完璧なのだが……。
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カタログ上のディメンションを丁寧に読み解くことで、そのクルマのキャラクターや狙いを推測することは十分に可能である。新型スポーツカーのスペック表を目にしたときには、単なる寸法ではなく、”走りの設計図”として、ぜひ読み解いてほしい。
講師 中谷明彦
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武蔵工業大学工学部機械工学科(塑性工学専攻)卒。理論派レーサー/ジャーナリストとして活動する一方、新車やタイヤの開発にもかかわり、4WD車や電子制御による車両運動性能の解析を得意分野とする。1997年より座学のみによるドライビング理論研究会「中谷塾」を開
設し、現インディカードライバー・佐藤琢磨らを輩出。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。現在の愛車はジープ・ラングラー(PHEV)。
※本記事は雑誌「CARトップ2025年12月号」の記事を再構成して掲載しております