オートマなのにシフトレバーが3本ってどういうこと? アメ車の謎装備「ハースト・ライトニングロッド」とは (2/2ページ)

ドラッグレース魂が生んだメカ

「なんて面倒くさいことを」と思うかもしれませんが、これこそが最大の狙い。1本のレバーで手動変速をしようとすると、興奮したドライバーが勢い余って1速から一気に3速へ飛ばしてしまったり、ニュートラルに放り込んでエンジンをブローさせたりしがち。

 そこで、レバーを物理的に「1速→2速用」「2速→3速用」と完全に独立させておけば、どれだけ力任せにレバーをブチ込んでも、絶対に目的のギヤの手前でピタッと決まるわけで、人間の操作ミスを物理的に「ゼロ」にするための、ロジカルで, 男気あふれる設計ということ。

 では、なぜこんな尖った装備が市販車に採用されたのでしょうか。そこには1980年代という、アメリカン・マッスルカーにとっての「暗黒期」の歴史が関係しています。1970年代のオイルショックや排ガス規制の直撃を受け、かつて7リッター超の巨大なV8で路面を震わせていたマッスルカーたちは、80年代に入ると牙を抜かれ、牙どころか爪まで丸くされて虫の息。

 そんな時代に、GMのブランド「オールズモビル」が、かつての黄金期を支えてくれたチューナー、ハースト社とふたたびタッグを組みました。1983年に15周年記念モデルとして発売された限定車がオールズモビル・カトラス・ハーストオールズ(Hurst/Olds)です。パワー競争ができないならば、せめてプロ用ドラッグレーサーのような熱いレーシングスピリットと、ドラッグレースのシフトワークをストリートへ、というコンセプト。

 この目論見は見た目のハッタリ度も手伝って大人気を博し、1983年には3001台が販売され、翌年は3500台が瞬時に売り切れたといいます。スタンダードなカトラスが年間数十万台も売れていたことを考えれば、じつにレアな限定モデルだったことがわかるはず。ちなみに、すべてのレバーを通常位置にしておけば、Dレンジ自動変速でジェントルに街乗りすることも可能という、アメリカンな実用性も兼ね備えていました。

 現代のパドルシフトや、シーケンシャルシフトに比べれば、効率の面で勝ち目はありません。が、センターコンソールにそびえ立つ3本の金属ロッドを掴み、エンジン音とともに1本ずつ叩き込んでいくあの高揚感は、間違いなく1980年代のアメリカにしか作れなかった「レガシー(遺産)」といえるでしょう。効率やスマートさだけがクルマの魅力ではないことを、この不器用で熱いレバーが教えてくれているような気がしてなりません。


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石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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