ポルシェ911のエンジンは350馬力でブレーキは1200馬力! レーシングドライバーが語る「制動馬力」とは (2/2ページ)

ブレーキは力と熱を同時に扱う複合システム

 一方、ドラムブレーキは回転体の内側にシューと呼ばれる摩擦材を押し広げる構造を持つ。回転方向の力を利用する自己倍力作用によって押付力が増加するため、小さい操作力で大きな制動力を得やすいのが特徴。しかし放熱性が低く、高温時に性能が不安定になりやすい。そのため現在の乗用車では前輪にディスク、後輪にドラムまたはディスクという構成が一般的となっている。

 ブレーキは熱機関でもある。例えば1500kgの車両が100km/hから停止する場合、約580kJのエネルギーを熱として処理する必要がある。それは運動エネルギーの公式E=1/2mv²から導かれ、具体的には車重1500kg、速度100km/h=27.7m/sを代入するとE=約57万8700J、つま580kJとなるというわけだ。

 したがって、100km/hで走行している1500kgの車両は停止するために約580kJのエネルギーをブレーキで熱に変換して大気に放散しなければならないということ。

 これだけの熱が短時間でディスクとパッドに集中するため、ブレーキディスクローターの表面温度は数百℃に達する。

 高熱によるトラブルとしては摩擦材が過熱、内部で分解してガスが発生し、摩擦係数が極端に低下するパッドフェード現象と、熱によってブレーキフルードが沸騰して気泡が生じ、ペダルストロークが拡大、あるいは踏力が抜けてしまうベーパーロック現象がある。

 ブレーキはたんなる力の発生装置ではなく、力と熱を同時に扱う複合システムであるという物理学的理解が求められるのだ。

講師 中谷明彦

 全日本F3000/ツーリングカー選手権などでの優勝、ル・マン24時間をはじめとした海外レースでも活躍するなど経験・実績豊富なレーサーであり、理論派モータージャーナリスト。新車やタイヤの開発にもかかわり、4WD車や電子制御による車両運動性能の解析を得意分野とする。ドライビングアカデミー「中谷塾」を主宰し、現インディカードライバー・佐藤琢磨らを輩出。自身が考えるストッピングパワーNo.1はポルシェ911。

※本記事は雑誌「CARトップ2026年6月号」の記事を再構成して掲載しています


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