鳥に蜂に葉っぱまで生物の進化は「最適解」の塊だった! 自動車技術を発展させてきた生き物がもつ驚きの機能 (2/2ページ)

生物がお手本になった撥水性・抵抗低減・放熱性

 バイオミメティクスの実例として、おそらくもっとも代表的なものが”ロータス効果”だ。とはいえ、コーリン・チャップマンが興した自動車メーカーのロータスとは無関係で、植物の蓮(英語名:ロータス)の葉っぱが水をはじく効果を応用した撥水技術を指す。

 蓮の葉には表面に微妙な凹凸があり、さらに水をはじくワックスがついている。その相乗効果によって水をはじくという仕組みを応用したのが、ヨーグルトが付着しないフタの表面構造であったり、米ツブがくっ付きにくい凹凸のあるシャモジのデザインだったりする。

ドアミラーガラスに塗布するケミカル剤や貼付するフィルム

 雨滴を寄せつけない蓮の葉の構造メカニズムは、雨天走行で大きなメリットをもたらし、ドアミラーガラスに塗布するケミカル剤や貼付するフィルムが販売されている。ただし、デリケートな扱いが必要で、強くこするなどすると一気に効果が薄れる。

 レーシングカーの世界では、サメ肌を参考にした”リブレット効果”が注目されている。サメ肌とはザラザラした触感を示す表現としてもおなじみだが、そのザラザラは海中での抵抗を減らす効果がある。その原理をバイオミメティクスとして解明するなかで、車体表面に微細な溝加工を施すことで空気抵抗を低減させられることが判明した。

 スバルのニュルブルクリンク24時間耐久マシンに採用された実例があるほか、モビリティでいえば航空機の表面処理にリブレットフィルムを貼っている例もある。2025年には全日本空輸(ANA)がリブレット塗装を機体に施すといった発展も遂げている。

スバルのニュルブルクリンク24時間耐久マシン


ニュルブルクリンク24時間に挑戦を続けるSTIでは、スピードアップと燃費向上を目的にマシンにサメ肌塗装を採用。全体をマット塗装とし、表面をザラつかせた塗装のフロントフェンダールーバーとドアミラーを採用している。

 また、空気抵抗減で言えば、川に飛び込み獲物を捕まえるカワセミのクチバシに着想を得た形状も見逃せない。空中から水中へ、密度の異なる状況変化の影響を最小限にする形状は、500系新幹線のノーズデザインに応用されたことはよく知られている。こうしたアプローチは、自動車のインテーク形状のデザインにも応用が利くものだ。

500系新幹線


抵抗が小さい流線型のカワセミのクチバシを模したのが500系新幹線。先頭部を同様の形状とし、トンネルの進入/脱出時に発生する圧力波(トンネル微気圧波)への対策を実施。今後、自動車設計への応用も期待されている。

 2023年のジャパンモビリティショーにおいて、トヨタ紡織が展示した”バイオミメティクス遮熱表皮”は、砂漠のような灼熱の環境において、昆虫が体温上昇を抑えている仕組みに学んだ技術だ。

バイオミメティクス遮熱表皮

 トヨタ紡織は、灼熱の砂漠で昆虫がいかに体温上昇を抑えて生息しているかのメカニズムを研究し、”バイオミメティクス遮熱表皮”を開発。車内に差し込む日差しによる室内温度の上昇を(従来比)最大約20℃下げる効果をアピール。

 具体的には、体表に三角形の毛を生やすことで太陽光を反射させると同時に、表面積の拡大によって熱放射機能を高めている。

 こうした構造を参考にしてインパネやドアトリムをデザインすると、真夏の炎天下で駐車していたクルマの車内温度の上昇を防ぐことができるというから興味深い。

バイオミメティクスはハイパーカーをも変える

 ジェネレーティブデザインの実例として興味深いのは、GMによるシートブラケット(連結部品)の設計だ。複数の部品を溶接して製造することが当たり前となっているブラケットの設計に、ジェネレーティブデザインを用いることで、ひとつのパーツに置き換えることができ、なおかつ20%の強度アップと40%の軽量化に貢献できるという。とくに、少しでも重量を削ることで航続距離を延ばしたい電気自動車にとっては欠かせない技術と言えるだろう。

 ハイパーカーの世界では、新興メーカーCzinger(ジンガー)のアプローチに注目したい。ジェネレーティブデザインと3Dプリンターを組み合わせることで、有機的な形状のギヤボックスを設計するなど、まさにエイリアンの遺物のような、見たことのない形状の部品を組み合わせてハイパーカーを生み出そうとしている。

ジンガー21C

 ジンガーはロサンゼルスに本拠を置くハイパーカーメーカー。エキセントリックなスタイリングもさることながら、前ひとり/後ろひとり乗りの2シーターは、いまだかつて見たことのないレイアウト。”21C”は2.9リッターのV8ツインターボ+モーターのハイブリッドモデルでシステム最高出力は1250psを謳う。

 いずれにしても、これまで人間が積み重ねてきた知見とは異なるバイオミメティクス的アプローチが、まったく新しい形状や画期的とも言える性能を実現している。しかし、物理の世界を飛び越えた領域においても、自然に学ぶという発想が有効になっている。それが自動運転の領域だ。

※本記事は雑誌「CARトップ2026年6月号」の記事を再構成して掲載しています


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山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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