イワシが魚群のなかでぶつからないのはナゼ? 日産が群れで走行する「自立走行ロボット」を完成させたまさかのヒント

魚の群れにヒントを得た日産の自立走行ロボット

 バイオミメティクス、ジェネレーティブデザインといった自然に学ぶテクノロジーはハードウエア領域だけで活用されるものではない。今後の期待が高まっている領域のひとつが自動運転である。

 自動運転の実現には、それぞれのクルマが適切なセンサー情報に基づき制御を行う自律走行機能が基本となるが、すべてのクルマを自動運転にしようと思うと、全体最適化という視点も重要だ。

 日産の自律走行ロボットカー”エポロ”は、生物の社会性を自動運転テクノロジーに応用した好例と言える。なにしろ、このロボットカーは地図情報に頼ることなく、まわりの仲間を認識して、みずからの判断で、他車とぶつかることなく、群れを形成するといった自律走行を実現している。

 アイディアのもととなったのは、イワシの魚群。非常に大きな集団がひとつの規律に沿って泳いでいるさまは、全体を統括する機能がありそうと思えるが、じつは各個体が「衝突回避」「並走」「接近」という3つのシンプルなルールに則って泳いでいるだけなのだという。

 具体的には、ぶつからないように進行方向を調整すること、周囲と速度を合わせること、そして隣との距離を保つこと、その3つを守ることで、全体として統制のとれた振る舞いを実現している。

 日産エポロもセンサーや通信により同様のシンプルなルールを守るだけで、地図情報がなくとも集団でスムースに曲がり、障害物を避けて動くという自律走行を可能としている。

38億年の生物の進化をAIで瞬時に再現・応用

 こうした技術は、自動運転におけるネゴシエーション(周囲との交渉や調整)において有効であるし、事故を防ぐといった文脈においても有効な”自然に学んだ”テクノロジーと言える。このような周囲との調和という意味においては、冒頭で記したバイオミミクリーに近いと言えるかもしれない。

 たとえば、各車両の速度から渋滞情報を生成し、最短ルートを導くスマホナビのようなテレマティクス機能は、アリの「フェロモン経路」による最短ルート探索といった生物の知恵をバイオミミクリー的アプローチで、ITによって社会実装したといっても過言ではない。

 エポロのような自律走行が個別最適化の例だとすれば、スマホナビの最速ルート設定は他車・他者の情報を全体として活用するという意味で全体最適化の好例なのだ。

 前述したバイオミメティクスによる空気抵抗減は、燃費向上や航続距離を延ばすのに役立つし、ジェネレーティブデザインによる有機的な形状は軽量化とコストダウンに寄与するもので、これからの自動車設計には必須のテクノロジーと言える。

 AIの進化により、生物が38億年かけて生み出した成果を、瞬時に再現、応用できる時代になっていることが、バイオミメティクスへの注目度を高めている。その設計を支えるジェネレーティブデザインを活用する上では、AIのアルゴリズムを鍛えることや、AIにどのような目標を与えることが大切な時代になっているともいえる。

 果たして自然の進化をショートカットするテクノロジーが、見たこともないカタチの自動車を生み出し、どれほど便利な機能を実現してくれるのか、大いに楽しみだ。

※本記事は雑誌「CARトップ2026年6月号」の記事を再構成して掲載しています


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山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

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