【試乗】水素ステーションが充実していないいま970kmの航続距離は重要! 乗ってわかった新型ヒョンデNEXOの高い完成度とFCVの現在地 (2/2ページ)

本当の意味で評価が下されるのはインフラが整備されてから

 室内の仕立てもかなりいい。前後方向の余裕が大きく、後席の足もとも広い。大容量の駆動用バッテリーを床一面に敷き詰めるBEVとはパッケージングが異なるため、後席フロアを比較的低く設定でき、自然な着座姿勢が取れる。後席シートバックにはリクライニング機構も備わる。

 Loungeでは前席左右にパワーシート、シートヒーター、シートベンチレーションを備え、後席にもシートヒーターを装備するなど820万円という価格に見合ったプレミアム性が与えられている。

 V2Lは100V/最大1500Wに対応し、日本仕様にはV2Hも設定された。つまり、NEXOは単なる移動手段ではなく、災害時には大量の水素を蓄えた「移動する発電設備」として利用できる可能性ももっている。

 惜しいのは、四輪駆動が用意されていないことだ。204馬力、350Nmという性能を前輪だけで路面へ伝えるFFであり、通常の舗装路なら問題ない。しかし日本では都市部を離れれば冬季は降雪地域が多く、SUVを選ぶユーザーほど雪道へ出かける可能性も高い。

 スタッドレスタイヤを履けば相当な範囲をカバーできるとしても、急勾配の雪道では4WDに明確な優位性がある。長い航続距離を武器に地方まで行動範囲を広げられるクルマだからこそ4WD仕様が欲しくなる。また、BEVなら山道を登って電力消費しても、下りの回生で多くを取り戻せるが、水素燃料ではそうはいかない。

 そしてもうひとつ、評価がわかれそうなのがエクステリアデザインだ。Cピラーを後方へ大きく傾斜させた独特のシルエットや、四角形を組み合わせたランプ類などによって、ひと目で普通のSUVとは違うことがわかる。

 しかしFCEVだからといって、必ずしも奇抜である必要はないはず。むしろ「燃料が何であろうと、このデザインだから欲しい」と思わせるスタイリングこそ新しいパワートレインを普及させる入口になるのではないだろうか。そういう意味では個人的にNEXOのデザインは好きになれないし魅力を感じない。トヨタMIRAIも初代のデザインがネガティブに作用したと感じる。

 クルマとしてのNEXOはかなりよくできている。150kWのモーターによる十分な動力性能、970kmというLoungeの一充填走行距離、約5分という水素充填時間、広いキャビン、優れた取りまわし性、そしてV2L/V2Hによる給電能力。FCEVを特殊な実験車ではなく、日常的に使えるSUVへ近づけた完成度は高く評価できる。

 問題は、もはやクルマそのものよりも社会インフラの側にある。水素ステーションがガソリンスタンドのように存在する社会になれば、長距離を短時間のエネルギー補給で走れるFCEVの評価は一変するだろう。一方で、現状ではステーションの場所を確認しながら行動する必要があり、そのハードルはBEV以上に高い。だからこそ970kmという航続距離には大きな必然性があるのだ。

 NEXOは水素社会が完成してから登場したクルマではない。むしろ、まだインフラが追いついていない時代に水素で走るクルマがどこまで実用車になれるのかを示した存在だと思う。その意味で新型NEXOは、現在の状況だけを見て評価するより、水素をエネルギーとして利用する社会が本格化するときまで待つべきだろう。ヒョンデが日本においても水素ステーションなどインフラの整備にどれほど貢献していけるのかも含めて注視していく必要がある。


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中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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