今後のさらなる熟成を期待する点も
その一方で、テストコースで感じていた課題も公道でも再確認することになった。シートである。静止状態で座れば面圧が小さく平均的に分散され、確かに快適だ。しかしクルマのシートは家庭用ソファとは違う。走れば前後左右のGが常に加わる。とくにコーナリングでは横方向のサポートが不足しているため、上半身が動く。シートバックの形状的に肩のホールドが弱く、座面で旋回中の姿勢を保持しなければならないので、それを抑えようとして腹筋を使ったり、助手席ならアームレストへ身体を預けたりすることになる。高級ミニバンとはいえ、走る乗り物である以上は静的な座面での体圧分散より動的面圧の解析を重視するべきだろう。
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車体そのもののロールはe-4ORCEと電子制御ダンパーによってよく抑えられている。問題は車体ではなく、その上に座る人間の姿勢だ。着座位置が高ければ、サスペンションのロールセンターから人間の重心位置までの距離も大きくなる。そのため車体のロール角が小さくても、乗員の上体には相応のロールモーメントが加わる。前後方向については非常に高度な制御が完成しているだけに、ここが惜しい。
2列目へ移ると、この傾向はさらに明確になる。新型エルグランドの2列目は広く、装備も充実している。日産がゼログラビティシートと呼ぶ左右独立シートにはオットマンも備わる。しかし長距離を本当に快適に過ごすという観点から見ると、豪華装備以上に身体を安定させることが重要なはずだ。とくに腰まわりを長時間支えるランバーサポートがほしくなる。背もたれ上部を動かせる機構も静止状態で休憩するには有効だろうが、走行中の身体保持という意味では腰や体幹を確実に支えてくれるほうがありがたい。
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さらに2列目では、1列目よりリヤサスペンションからの入力や後方から届くノイズが聞こえやすくなる。前席付近の静粛性が非常に高いだけに、相対的にリヤ側の音が目立ってしまう面もある。これは新型エルグランドの水準が低いという話ではない。遮音ガラスの採用や、ノイズキャンセラー機能により前方の静粛性が高すぎるため、車内全体の質感を揃えるにはリヤ側にももうひと磨きほしくなるということだ。
もうひとつ興味深いのが停止直前のブレーキ制御だ。新型エルグランドには停車時の前後揺れを抑える制御が組み込まれている。強い制動時ではなく、通常の停止操作の最後にブレーキ液圧を調整し、停止した瞬間に乗員の頭が前後へ揺すられるのを抑える。一般的なドライバーには非常に有効な技術だろう。最後まで一定にブレーキを踏んでいると、通常なら停止した瞬間に頭がカクンと動く。そこをクルマ側が滑らかにしてくれる。
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ところが普段から停止直前に自分で制動力を抜いているドライバーには少し事情が違う。人間がブレーキを抜こうとするタイミングと車両制御が重なると、一瞬だけ予想以上に制動力が抜けたように感じることがある。テストコースで初めて体験した際には、ブレーキが抜けたのかと感じたほどだった。
担当エンジニアとの議論でも、この点は興味深かった。この機能そのものを否定する理由はない。むしろ多くのユーザーに恩恵がある。ただ、ドライバーがすでに適切な減速度調整を行っていると車両側が判断できるなら、介入を減らすケースも想定してもいいだろう。新型エルグランドほど高度な電子制御を備えるクルマなら、すべてのドライバーへ一律に同じ補正を与えるのではなく、個別に操作特性そのものを読み解き、最適な介入ができるなら最高だ。
インテリアも大幅に近代化された。試乗車のGグレードに用意されるメーターとセンターディスプレイは各14.3インチで、横方向に大きく広がる。画面は上下方向にも十分な寸法があり、ナビゲーションも見やすい。小径の2本スポークステアリングも意外に扱いやすく、市街地では最小回転半径5.7mという取りまわしのよさも効いている。ただAピラーから前方へ伸びるボディ形状のため、左前輪付近の位置関係は少し掴みにくい。カメラで補うことはできるが、本来は視界やステアリングインフォメーションから得られる情報だけでも車体の四隅が自然に把握できることが理想だ。
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こうして公道を走らせてみると、新型エルグランドが目指しているものがはっきりしてきた。これはワインディングで速さを競うためのミニバンではない。大切な人を乗せ、長距離を静かに、滑らかに、疲れず移動するためのグランドツアラーである。
第3世代e-POWERのスムースな駆動力、進化したe-4ORCEによる前後姿勢制御、インテリジェントダイナミックサスペンション、そして高い静粛性。その基本骨格は非常によくできている。だからこそシートの横方向サポート、2列目以降の振動と音、停止直前のブレーキ介入といった、乗員が実際に感じる最後の数%が気になってくる。それらはいずれも新型エルグランドの根本を否定するものではない。むしろ基本性能がここまで高くなったからこそ見える課題である。
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長らくアルファード/ヴェルファイアが圧倒的な存在感を示してきた大型プレミアムミニバン市場に、ようやくまったく違う思想をもった有力な選択肢が現れた。
ライバルを研究し、対抗すべき実力を身につけてエルグランドは帰ってきた。デザインは好みがわかれる部分だが、クセがなく、しかし斬新さとエレガンスさが漂い好印象を与えてくれた。インテリアデザインも装備も申しぶんない。しかし、海外を見れば中国製の同クラスミニバンが斜め上をいく進化を遂げている。新型エルグランドには、激戦を勝ち抜くための進化がこれから求められ続けることになる。「頑張ってね、日産」。
