骨折や死亡事故も……昔のクルマのエンジン始動は命がけ。今や当たり前の「セルモーター」は偉大な発明だった (2/2ページ)

100年以上前にセルモーターは誕生

 こうしたことから、人力によらず、機械によってエンジンを始動させることはできないものか、と考えた電気のエキスパートがいた。アメリカ人のチャールズ・F・ケタリングがその人だ。ケタリングが人力の代わりに電気モーターによってクランクシャフトをまわす方式を考案したのは1912年のことで、ガソリン自動車(ゴットリープ・ダイムラー/カール・ベンツ)の誕生から27年後のことだった。すでにこの時代は、ガソリン自動車が世のなかに普及(T型フォードが1908年)し始めていたころだった。

 ちなみにケタリングは、ディストリビューターによるポイント式点火を作り上げたことでも知られている。ポイント式点火がケタリング式点火と呼ばれるのはこのためだ。

 なお、電気モーターはイギリス人のウイリアム・スタージャンが1932年に発明している。直流モーターで、セルモーターの考案より95年も前のできごとだったが、その間に電気モーターは、幾多の改良を経て実用デバイスとしての地位を不動のものとしていた。

 さて、セルモーターの仕組みだが、モーターシャフトの先端にピニオンギヤがセットされ、スタータースイッチをオンにするとモーターがまわって先端のギヤが飛び出し、クランクシャフトに連結されたリングギヤ(フライホイールと共に固定される)と噛み合いエンジン(クランクシャフト)をまわすことになる。回転数はおよそ200回転/分と低い。

 これでエンジンが始動するとドライバーはスタータースイッチから手を離すことになるが、セルのピニオンギヤにはオーバーランニングクラッチ(ワンウェイクラッチ)が設けられ、アイドリング(ほとんどが1000回転/分以下)回転でセルモーターが過回転しないようになっていると同時に、リングギヤとかみ合っていたピニオンギヤを自動で元の位置に戻す機構(ソレノイドコイルの磁力)が組み込まれている。

 クランクシャフトをクランクハンドルによって人力でまわし、エンジン始動を行う手間と技術、危険から、スイッチひとつでエンジン始動を可能にしたスターターモーター機構(セルモーター)の発明は、数ある自動車発明史のなかでも屈指の存在といえるのではないだろうか。


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