「これ本当にマーチですか?」オーテックの職人の手組みエンジンを積んだ30台限定の異端児「ボレロA30」の異常なスペック (2/2ページ)

赤字覚悟の本気のチューンドマーチはもはや工芸品レベル

 さて、外まわりの段階でもう腹いっぱいなほどスペシャルだが、このクルマの真髄はやはりその心臓部、エンジンにある。

「ボレロA30」に搭載されるエンジンは、HR16DEという当時のノートNISMOなどに搭載されていた、いわゆるテンロクNAエンジン。最高出力は140馬力/6400rpmと、実用的なユニットであった。しかし、オーテックがこれをそのまま搭載するわけがない。ここで、湘南の職人技が発揮される。

 まず当然オーテックの職人たちによる手組みだ。SUPER GT車両などのエンジンを組み立てている人が担当しているという。内部に使われるパーツももちろん専用品で、専用カムプロフィール&専用強化バルブスプリングをはじめ、高強度コンロッド&コンロッドボルトなどを採用する。なお、クランクシャフトはバランス取りが行われている。手組みエンジンでは定番となるシリンダーヘッドのポート研磨も忘れない。

 他社の話で恐縮だが、ホンダの初期のタイプRのエンジンにもうひと工夫加えたようなメニューで、まさにフルチューン。エンジンルームのコアサポートに取り付けられた「AUTECH HAND BUILD IN CHIGASAKI」のプレートも誇らしい。

 最高出力は150馬力/7000rpm、最大トルクは16.3kgf·m(160N·m)/4800rpmとなり、ミッションは5速MTだ。数字だけ見ると「あれ?」と思うのも無理はないが、レッドゾーン7100rpm(レブリミッター7200rpm)と高回転エンジンであり、NAエンジンならではのぶんまわす楽しさが備わっているだけで儲けもの。車重がたった1030kgという点も見逃せない。

 そもそも、通常のマーチ(K13)が80馬力程度の出力しかない3気筒エンジン、マーチNISMO Sでさえ1.5リッターのエンジンで116馬力程度の出力しかないのだから、マーチで150馬力という時点で異常なことなのだ。これだけのエンジンなので、ECUのセッティングなども専用であるほか、排気系も専用設計。センター出しのデュアルマフラーは、エキゾーストの名門であるフジツボ製だ。

 インテリアもまた専用の仕立てとなっており、標準でRECAROのセミバケットシート、LX-Fが備わっている。リヤシートも専用表皮となっているほか、ステアリングも専用の革巻き仕様で、シリアル番号入りのプレートや、220km/hスケールのスピードメーターも備わる。

 このクルマのもうひとつ面白いポイントとしては、登録がオーテックによるもち込みという背景もあったので、車検証上の型式が「DBA-K13”改”」になる、所有欲を満たしてくれる(!?)スペシャル要素もあった。保険の契約ではやや厄介だが……。

 と、ここまでスペシャル尽くしの”ガチ”チューンドカーであった「ボレロA30」は、2016年4月11日~5月9日の期間に、インターネットでの応募受付で限定30台と、車名のA30=オーテック創立30周年の数字にちなんだ台数だけ用意された限定車であった。当然応募が殺到し、買えた人は幸運だったのはいうまでもない。2016年当時はまだ新車市場では納期遅延などもなく、転売なんてのも今ほど蔓延っていなかったので、本当に欲しい人の応募が集中したはずだ。

 気になる価格は356万4000円と、「マーチに350万!?」と思えなくもないプライスであったが、この内容を仮に個人でマーチボレロを買ってきてやっても、DIYならまだしも店に出したら絶対に無理なので、バーゲンプライスもいいところ。参考までに、ベースのマーチボレロは170万円程度だったので2倍程度のプライスだ。オーテックの当時の関係者は、前述のホイールも含め、ほぼ赤字のメーカー泣かせなクルマだったと語っている。もし今同じようなクルマを作れば、もっと金額が跳ね上がるだろう(ベース車がないが)。しかもこのクルマは日産ディーラーで新車で購入できる、つまり新車保証が適用されるのも忘れてはならない。チューニングカーなのに保証付き、これがオーテック車における最大のメリットでもある。

 なお、この「ボレロA30」、ごくまれに中古車市場に姿を現すことがある。これがどんなクルマか知っていて持っている人が大半なのでおいそれと手放すことは稀だが、市場に出てくると500〜600万円前後であることが多い。筆者も何台か見たことがある。

 このクルマがデビューした年の里帰りミーティングでは、「抽選に外れたけど中古で出てきたのを買いました」という人がいたので、根気強く探していれば、そのうち出てくるかもしれない。

 そういえば、2026年はオーテック創立40周年ではないか。もとオーテック車両オーナーの筆者としては、湘南魂全開のなにか凄いクルマが発表されてほしいのだが果たして……!?


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WEB CARTOP 井上悠大 INOUE YUTAI

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