エンジン車の呪縛から解き放たれた新型日産リーフが目指したデザインとは (1/2ページ)

クール&サイレントでも力感を表現

 EVという新しい市場を開拓した日産リーフが、新型にフルモデルチェンジ。そのエクステリアはダイナミックでありながら、大人の落ち着きを感じさせるスタイリッシュなデザインへと生まれ変わった。その狙いについて、プログラム・デザイン・ダイレクターを務めた森田充儀さんは次のように語る。

「世界初の量産EVである初代リーフは世に初めて問うEVとして、まずはその存在をしっかりと主張し、街なかで『ここにリーフあり』ということを表現するためにあえてユニークなデザインを狙ったという面がありました。アイキャッチーな縦型ヘッドランプをはじめ、スロープダウンしたリヤデザイン、ウェーブしたウエストラインなど、ほかのクルマではあまりやっていない表現も多く取り入れていました」

「ですが、リーフ登場から時間が経った現在、EVはまだまだ特別なクルマではあるものの、他社さんからもEVの登場がぞくぞくと予告されてくるなど、世のなかのEVへの認識や理解が確実に深まった状況になっています。そこで新型のデザインでは、もう少しクルマ本来のスタイリングとしての本質的なカッコよさやバランスのよさ、心地よさといったところに軸足を置いてトライアルしています」

 新型リーフのエクステリアのデザインコンセプトは、“スリークなシルエットとクール&ハイテック表現”というもの。それを実現するための3つのキーワードとして、“サイエンティフィックな感情表現” “クリーン” “精緻な作り込み”が掲げられた。

「キーワードが意味するのは、理性的で技術的な裏付けのある理論的な形作りに合わせて、EVならではのダイナミックなスタイリングを実現するということです。これまでのガソリン車のデザインセオリーには、たとえば、ダイナミックな走りを予感させるための立体のボリュームの付け所や姿勢、あるいはタイヤがパワフルに地面を蹴って走るための力感表現として、マッシブなフェンダーのデザインなどといった手法があります」

「ですが新型リーフでは、そうしたダイナミック表現やパワフル表現について、パワーユニットとタイヤが電気的な繋がりによって駆動しているという『軽さ』や『効率のよさ』などを、形としてしっかり表現したいと考えました。従来のような熱をともなう走りや力感の表現ではなく、クールでサイレントな『走り感』みたいなものをエクステリアでどう表現するか、そのあたりについて何度も何度もチームのディスカッションを重ねて模索していったんです」

  

 EVならではの走りを表現するデザインは、いわばガソリンエンジン車の呪縛から解き放たれたデザインでもあると語る森田さん。そんなデザインの実現は、デザインチーム全員が一丸となって成し遂げたものだ。デザインチームの皆さんにも開発を振り返っていただいた。

●デザイン・プログラム・マネージャー/杉谷昌保さん

「EVが『スタンダードなクルマ』となりつつある今、新型リーフでは普遍的な表現をしたいと考えました。そのために重要だったのは、デザインに込められたデザイナーの意図を、いかに深く設計サイドに理解してもらうかということでした」

「先進技術を開発したエンジニアとしては、新しい技術をカタチとしてもアピールしてほしいと考えるのは当然の気持ちだと思いますが、それがお客さまにとっての使いやすさや親しみやすさを損ねることになってはいけません。どんなに新しい技術でもすごく使いやすいという『やさしさ』は、初代からのリーフのデザインの味です。そこはしっかりと守るべきと考え、開発を進めました」

●エクステリアデザイン担当/渡辺和彦さん

「EVだからこそ可能な表現がある一方、EVならではの難しさもありました。たとえば充電ポートまわりがそのひとつです。非常にタイトに作られている部分であることから、デザインを実際の立体に落とし込むのは本当に苦労しました。強電用ケーブルは太くて硬いためにすごく曲がりにくく、当初はなかなかそれをデザインして収められませんでした」

「生産サイドからも、こんな形状を工場で組み付けるのは不可能だという声が挙がりました。そこでデザイナー自身が工場の試作現場に立ち会って、ケーブルがどこまで曲がるかの限界を確認したりしながらミリ単位でデザインを詰めていったんです」

●チーフモデラー・峯岸昭男さん

「面質の表現や細部の作り込みには徹底的にこだわりました。グリルやランプなどは自分自身のモデラー経験のなかでも、非常にハードルの高いデザインだったと思います。コンマミリ単位でのブラッシュアップを重ねました。ランプでは形状だけでなく光り方にもこだわり、ランプサプライヤーさんのもとへ出向いて、光り方の解析をしながらその場でデジタルデータを作るといったことまでやっています」

●エクステリア・クレイモデラー/秋山結太さん

「新型リーフのエクステリアでは航続距離に大きく関わるCd値も非常に重要な要素です。風洞実験の現場に赴いて、その場で立体を修正しながらCd値の向上を図っています」

●感性品質デザイン担当/羽深太郎さん

「最新の自動運転技術を活用した『プロパイロット パーキング』などを備えていますが、そのために追加されたカメラやセンサー、レーダーなどは、普通に付けただけではクルマのあちらこちらに出っ張りができてしまいます。ですが、シンプルでクリーンなデザインのあちらこちらに凹凸が目立ってしまっては、せっかくのスタイリングが台なしです。設計生産と連携しながら、すっきりと目立たなく搭載することに強くこだわりました。最後の最後まで微妙なチューニングを重ねて最終的な形を実現したんです」

●エクステリアカラーデザイン担当/フランソワ・ファリオンさん

「エクステリアカラーでとても気を配ったのは、EVらしいキャラクターをしっかりと立たせつつ、クルマ本来のカーライクなカッコよさをどうバランスさせるかといった部分です。また、日本市場でのコンペティターを考えることにもこだわりました。全14色のカラーバリエーションがありますが、それはEVとしてのコンペティターだけを考えるではなく、コンパクトハッチバックのコンペティターも視野に入れた競争力を付けようと考えた結果なんです」


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