世間はSUVブーム真っ只中! なのに月販100台以下の残念なSUV3選

国産SUVは25車種前後のラインアップ

SUVは軽自動車やミニバンに比べて定義付けが曖昧だ。たとえばスズキ イグニスはSUVとコンパクトカーの中間的な存在で、どちらにも含められるだろう。これらもSUVとして数えると、国産SUVは25車種前後になる。

SUVSUVは人気の高いカテゴリーだから不人気車は少ないが、それでも3車種ほど取り上げられる。不人気車になる理由は、発売から長い時間を経過したり、海外向けに開発されて国内販売には力を入れないからだ。それでも機能に特徴があり、注目に値する車種もあるから改めて考えてみたい。

1)スズキ ジムニーシエラ

 ジムニーと小型車版のジムニーシエラは、次期型の発売を控えて2018年2月中に生産を終える。つまりモデル末期車だ。とくにジムニーシエラの1カ月の登録台数は、以前から100台以下に落ち込んでいた。ジムニーシエラ発売は1998年1月で、当時の名称はジムニーワイドであった。新規格になった軽自動車の現行ジムニーよりも10カ月ほど早くデビューしており、今では発売後20年を経過した。

 小型車ではあるが、後席や荷室の広さは軽自動車のジムニーと同じで狭い。乗り心地も前後方向の揺れが大きい。操舵に対する反応も曖昧だ。エンジンは直列4気筒の1.3リッターだが、JC08モード燃費は12.6km/Lだから、ハリアーの2リッターターボ(4WD)と同程度にとどまる。緊急自動ブレーキなどの安全装備は採用されない。このように欠点はきわめて多いが、悪路の走破力は抜群に高い。

 曖昧な操舵感が悪路にはちょうど良く、耐久性の優れたラダーフレームと車軸式サスペンションの作用で、デコボコを柔軟に乗り越える。悪路に乗り入れた瞬間、舗装路で感じた欠点のすべてが長所に一変する様子はじつに印象的だ。

 峠道のカーブを曲がる時も、ひと呼吸早めに減速を行ってハンドルを切り込むと、旋回軌跡を拡大させにくい。つまり操舵感の鈍さや曖昧さも、運転の仕方を工夫すれば解決できる。コツを覚えてスムースに曲がれた時は、けっこう嬉しかったりするものだ。

 不人気車で設計の古さも痛感するが、悪路の走破力は、今でも日本で買えるSUVでは輸入車を含めてナンバーワンに位置づけられる。

2)三菱パジェロ

 今のSUVの売れ筋は、乗用車と同様のプラットフォームを使った前輪駆動がベースの車種だ。走破できる悪路は雪道程度までだが、低床設計で乗降性や居住性が優れ、サスペンションも舗装路向けだから走行安定性と乗り心地を向上させやすい。

 そのために今のSUVでは、乗用車系が主力だ。副変速機を備えた4WDを搭載する後輪駆動がベースのオフロードSUVは、トヨタ ランドクルーザーと同プラド、スズキ ジムニーと同シエラ、トヨタFJクルーザー三菱パジェロのみとなった。

 これらの車種は売れ行きが全般的に低調だが、パジェロは1カ月の登録台数が100台を下まわる。そのためにショートボディは生産を終えて、今はロングボディのみになった。ロングボディのサイズは、全長が4900mm、全幅が1875mmと大柄で、最小回転半径も5.7mに達する。車両重量は2トンを軽く上まわり、発売は2006年だから走行安定性にも設計の古さを感じる。緊急自動ブレーキを作動できる安全装備などは採用されない。

 それでも直列4気筒3.2リッターのクリーンディーゼルターボには魅力がある。まさにディーゼルの典型で、高回転域の吹き上がりは鈍いが、低回転域の駆動力は強力だ。今は悪路向けのSUVが大幅に減ったから、改良を施して今後も存続させてほしい。

 そして将来は、2017年の東京モーターショーに出品されたe-エボリューションコンセプトのように、後輪の左右に別個のモーターを配置した4WDの登場が期待される。エンジンの力をデファレンシャルギヤで左右輪に振り分ける4WDに比べると、駆動力を自由自在に制御できるからだ。滑りやすい路面では、スリップも利用して回転半径をきわめて小さく抑えるなど、独立式モーターの採用は悪路の走破力を飛躍的に高める可能性を秘める。

3)スズキSX4Sクロス

 スズキSX4Sクロスは、ハンガリーの工場で生産されるスズキ製の輸入車だ。エンジンやプラットフォームを同じくハンガリー製のエスクードと共通化するが、SX4Sクロスは売れ行きが伸び悩む。1カ月の登録台数は100台以下で、エスクードの30〜50%だ。販売不振の理由として、まずは車両の性格が挙げられる。エスクードは前輪駆動がベースだが、外観はオフロードSUV風で魅力がわかりやすい。その点でSX4Sクロスは、ミドルサイズハッチバックにも似ていてSUVらしさが曖昧だ。

 またエスクードには車両のみを対象とした緊急自動ブレーキ(歩行者は非対応)、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールが備わるが、SX4Sクロスにはそれがない。エスクードと違ってアイドリングストップも付かず、JC08モード燃費は15.2km/L(4WD)だから2リッターの日産エクストレイルと同等になってしまう。

 しかも価格が割高で、不利な要素が多すぎる。外観のインパクトが乏しいのは、どうしようもないが、日本で売るなら安全装備や燃費は向上させるべきだ。同じスズキの不人気なSUVでも、ジムニーにシエラには独自の魅力が備わるが、SX4Sクロスにはそれが乏しい。エスクードをベースに、もう少し工夫する必要がある。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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