女子しか乗れないクルマは要らない! ダイハツがミラトコットで図った脱カワイイ化の狙い

親子で共有できるクルマを目指した

 6月25日にダイハツは新型軽自動車“ミラ トコット”の発表・発売を行った。それまでラインアップされていた、“ミラ ココア”の後継モデルと報じるメディアが多いが、トコットのスタイルを見る限り、「ホントにココアの後継なの?」という違和感を覚えてしまった。ミラ トコット

 “パグ犬をイメージした”とまでいわれているミラ・ココアは2009年8月にデビュー。ダイハツ車のお約束である、“D”エンブレムまで装着せずに、徹底的に“カワイイ”に徹したそのスタイルは、“日本車のなかで、もっとも男性ドライバーの似合わないクルマ”などとも言われた。

 発売1カ月が経過した時点でダイハツがココアの受注状況についてのニュースリリースを発信しているが、それによると「購入客中の女性比率は90%で、20・30代女性を中心に幅広い年齢層から支持を得ている」というから、見事“ストライクゾーン”のユーザー層を射止めたことになる。

 ところが、メインユーザーである女性を強く意識したキャラクターの多い軽自動車のなかでも、究極の女性向け“カワイイ軽自動車”であったココアに比べれば、トコットは、さっぱりしすぎているのである。トコットのニュースリリースによると、トコットのターゲットユーザーに近い女性社員で構成されたプロジェクトチームがトコットの企画に参画したとのことであった。

 ココアのニュースリリースでは、ココアのコンセプトは「私にぴったり! 賢いハッピーパートナー」となっており、メインターゲットである若い女性をかなり強く意識したものとなっている。

 一方でトコットの開発コンセプトは、「誰でもやさしく乗れる、エフォートレスなクルマ」となっており、ココアの女性を強く意識したものに比べれば中性的なものにも感じる。

 筆者がオジサンなのか、“エフォートレス”という言葉がよくわからないと思っていたら、リリースに「肩肘張らず自然体でいられるということを表すファッション用語」と注釈がついていた。

 ここでココアとの共通点を発見した。ココアでもリリース内に、「毎日を肩肘張らずに楽しむ女性をターゲットに~」というくだりがあるのだ。“肩ひじを張る”とは、“気負う”ことを表現しているので、リラックスした毎日を送る女性を強く意識している点では両車は共通しているようだ。

 “ママ友ネットワーク”などという言葉を聞くようになって久しいが、あるネットワークでリーダー的存在のママが、たとえばムーヴ・カスタムに乗っていれば、そのネットワークのママ友のみなさんはムーヴ・カスタムとなり、別のママ友ネットワークのリーダー的存在のママがワゴンRスティングレーに乗っていれば、そのネットワークのママさんはワゴンRスティングレーになり、保育園の送迎を時間差で行い、時間帯で駐車場にはムーヴだけの時と、ワゴンRだけになることもあるといった話も聞いたことがある。

 ここまで極端な話の真実味はともかく、昔は「どうせ新車買うならご近所が乗っていないクルマがいい」という傾向が目立っていたが、いまでは「ご近所と同じクルマがいい」として新車購入を検討するひとも珍しくないという。

 このようなある意味“ひととの付き合い”を強く意識した、肩肘張るようなカーライフからも解放された女性が乗る、個性的な軽自動車という部分では、トコットはココアの流れを継承しているといえるのかもしれない。ココアやトコットが単に女性向けにファッショナブルに仕立てたクルマではないことにも注目してもらいたい。ココアでは“バックモニター内蔵ルームミラー(自動防舷機能付)”が国内で初採用されていた。

 トコットでは、“パノラマモニター&コーナーセンサー”を軽自動車で初採用、“SRSサイドエアバッグ(運転席&助手席)&SRSカーテンシールドエアバッグ(前/後席)”の全グレード標準装備を軽自動車で初設定している。

 軽自動車はすでに新車販売全体のなかで、約35%を占めるほどになっている。トコットの広報資料でも、「現在軽自動車は、女性や高齢者を中心に、毎日の買い物や通勤、通学など日常生活に欠かすことのできない移動手段として活躍」としている。

 つまり軽自動車自体がすでに女性ユーザーだけでなく、クルマがなくては買い物や通院がままならない、セミリタイアやリタイア世代の軽自動車保有率もかなり高まっており、さらに若年男性ドライバーも自己所有車として軽自動車を所有することも珍しくなくなってきている。つまり、若い女性だけを意識した商品開発では軽自動車の量販が難しくなってきているのである。

 ただし、若い女性ユーザーをまったく無視することもできない。しかし男性スタッフ主導の開発では、なかなかその辺りの“さじ加減”がうまくいかないので、今回のトコットの開発では、女性プロジェクトチームがバランス調整役としても活躍したと考えられる。

 ダイハツでは2016年9月に発売した、“ムーヴキャンバス”が大ヒットしている。「自身のライフスタイルを楽しむ女性に寄り添う新感覚スタイルワゴン」をコンセプトとし、VW(フォルクスワーゲン)バスのようなイメージを意識したモデルだ。ダイハツ軽自動車ならお約束のエアロ系シリーズもなく、さりとて“カワイイ”が強調されてもいないのに大ヒットしている。

 ニュースリリースによると、メインターゲットは若い女性なのだが、「親との同居世帯の増加に伴い、世帯内でクルマを共有する傾向が増えている」として、幅広い世代で使いやすい軽自動車を目指したとして、メインターゲットの若い女性だけでなく、年配層などの幅広い支持を得たのが成功の秘訣と考える。

 今回のトコットも、キャンバスのような“親子で共有できるクルマ”といったものをめざしたような部分を多く感じることができる。

 “小さくてカワイイクルマ=女性”というイメージの定着はガラパゴス化する日本市場だけの話といってもいいぐらい世界的には珍しいこととされている。たとえばアメリカで聞いたところでは、男性顔負けで仕事をバリバリこなすキャリアウーマンは、レクサスやBMWあたりのスポーツクーペや、クロスオーバーSUVを自分のパーソナルカーとして乗っているとのこと。

 それでもある程度の女性ならではの消費傾向はあるようで、“セクレタリーカー(女性秘書などキャリアウーマンが好んで乗りそうなモデル)”などという表現があったり、ママさん達が好んで3列シートのクロスオーバーSUVといったものはあるが、「女性向けですよ」といったメーカーサイドからの商品展開はなく、基本的にはそれぞれの女性がそれぞれのライフスタイルに合わせて自由にクルマを選んでいる。極端な話では富裕層の女子高校生が通学用にレクサスIS Fを親から買ってもらったという話もある(同じ高校で複数の女の子がIS Fを通学用に使っていたという話もある)ので、まさに車種選択は個人の自由といえるだろう。

 アメリカのディーラーで、あるクルマについてセールスマンに“どんなひとが多く乗っていますか”と聞くと、“そんなのわからない”という答えがよく返ってくる。売るほうもターゲットユーザーやどんな客が好んで乗っているかなどは興味がないようである。GM(ゼネラルモーターズ)のビュイックブランドがコンパクトクロスオーバーSUVについて女性向け車両のようなイメージの宣伝を行っているが、アメリカではかえって違和感を覚えるのが現状である。

 いま日本では国を挙げて女性の今まで以上の積極的な社会進出を進めており、企業における女性管理職もますます積極登用されている。そのような社会情勢のなかで、軽自動車にいつまでも“女性向けを強調したカワイイクルマ”があり続けるのは、“女性はこれで十分”ととらえられかねないことでもあり、今後はそのような社会情勢の変化も影響して、“女性向けのカワイイクルマ”は影を潜めていくのではないかとも考える。

 そして他方では、軽自動車の販売比率が高まるなか、年配層や若年男性などユーザー層が多様化して、さらにこの流れが顕著となっており、ターゲットユーザーの間口を広げる必要性も出てきている。

 トコットやキャンバスなど、派生モデルのラインナップを得意とするダイハツが世の中の動きを敏感にキャッチしていることを具現化した1台がこのトコットなのかもしれない。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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