シフトチェンジしないの!? 農道でレッドゾーンまでぶん回す……けど遅い「軽トラ」を見かけるワケ

この記事をまとめると

■田舎ではエンジンを高回転までまわしている軽トラが少なくない

■高齢者の耳ではエンジン音の発する音が聞こえずギヤを引っ張っている説が濃厚だ

■かつての軽トラックは非力だったのでエンジンをまわす癖がついている人もいる

ぶんまわしているのはボケてるせいではない!?

 都心部では見かけないものの、田舎のちょっと空いた道だと、どこからともなくエンジンの唸りが聞こえることしばしば。聞きなれたスポーツカーの音に比べると迫力は控えめながら、あきらかに高回転のハイトーン。もしや、往年の小排気量レーシングカーかと振り向けば、じいちゃんが駆る軽トラ。エンジン全開かのような音のわりに、自転車みたいなスピードというのも印象的です。果たして、お年寄りが運転している軽トラはエンジンをやたらと高回転までぶんまわしているようですが、いったいどうしたことなのでしょう。

 マジレスしちゃうと、じいちゃんがMTのギヤを異様なまでに引っ張ってしまう原因は、「加齢による聴力低下」と「視覚情報の欠如」のコラボレーション。人間の耳は、加齢に伴って高い周波数の音から徐々に聞こえにくくなっていきます。いわゆる「高音難聴」と呼ばれるものですが、自動車のエンジンが回転数を上げたときに発する「キーン」とか「ミーン」という甲高い金属音やうなり音は、まさにこの聞こえにくい音域のド真ん中。

 さらに拍車をかけるのが、多くの軽トラックがエンジンの回転数を示すタコメーター(回転計)を装備していません。ベテランドライバーであればあるほど、本来はエンジン音の“高まり”を耳で感じ取って「そろそろ次のギヤだな」とシフトアップしていくもの。しかし、高い音が聞こえない上に、目で確認できるメーターもないとなれば(軽トラックのような廉価なクルマにはタコメーターがない場合も多い)、ドライバーは「まだエンジンが十分にまわっていない(音が聞こえない)」と錯覚してしまうのも当然かと。

 結果として、自分がはっきりと認識できる音量・音域に達するまでアクセルを踏み込み続け、結果としてレッドゾーン寸前までエンジンをぶんまわすことになってしまうわけです。また、昔の非力な550cc時代の軽トラなどを知っている世代だからこそ、「もっとまわすんじゃ! もっとまわさねば加速もしなけりゃ、坂も登らんのじゃ!」という古い記憶と体験が身体に刻み込まれているわけです。

 そうしたじいちゃんの多くは、かつてセナやマンセルがF1マシンのV10エンジンをブイブイいわせるのに胸躍らせていたはず。すると、田舎の道を走っていても無意識のうちに「セナ足」を踏んでしまい、「何人たりとも……」と目が三角になるのかもしれません。

 ともあれ、メーターをノールックでクルマと対話しようとする姿勢は、ある意味でレーサーそのもの。これからも増え続けるであろうお年寄りと軽トラという日本ならではのゴールデンコンビは、温かく見守るのが吉。なにしろ、古くから伝わる通り「子ども叱るな いつか来た道 年寄り笑うな 行く道じゃ」ですからね。


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石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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