理論派レーシングドライバーが斬る! 走りに納得できるハイブリッドスポーツカーが存在しないワケ (2/3ページ)

スーパースポーツのホンダNSXがもっとも高レベルだが……

 では他社はどうだろうか。国内外を問わず、自動車メーカーはトヨタ2強の成功を目のあたりにし、黙って指を加えて見ているだけでは済まされない。当然ハイブリッドの開発を急ぎ進め市場に投入することが急務となったはずだ。だがそこで大きな壁が立ちはだかる。それはトヨタがハイブリッドの基幹技術全般において2万点あまりの特許を取得していたことだ。

 ホンダは1997年にトヨタが初代プリウスを発売した直後にプリウスを購入し、ボルト1本にいたるまで完全に分解しコスト計算をし、その結果もしホンダが同じシステムのハイブリッド車を生産したら500万円でも採算が取れないという結論に達していたという。その上にトヨタの特許を回避するためのシステムを考えなければならず、ハイブリッド車の早期投入は厳しいと考えていたようだ。

 トヨタの特許を回避しながらIMA(インテグレーテッドモーターアシスト)を開発しシビックに搭載したのは2001年。しかしそれはトヨタのようにEV走行ができず、モーターでエンジンをアシストする機能に制限されたものだった。

 このIMAがその後改良を続け2010年に2ドアスポーツクーペ「CR-Z」に搭載された時は正直心が踊った。IMAでは燃費でトヨタのシステムに適わないと悟ったホンダがハイブリッドをスポーツカーへと転用し、エンジンのパワーブースターとしてモーターを活かす活用方法を見出だしたと考えられたからだ。

 たとえば自然吸気エンジンで高回転型のハイパワーなエンジンがあっても、空気密度の薄い標高の高い場所ではターボチャージャーなどの過給器をつけないとパワーが引き出せない。また高回転型では低速トルクが不足し市街地でのドライバビリティが劣る。そこを電気モーターで補えるなら0回転から最大トルクが引き出せ空気密度も関係のない特性が大きな武器になるはずだ。だがそのCR-Zも大きな成功を掴めず2017年に生産を終了してしまった。

 CR-Zには(マイナーチェンジで)ステアリング上にオーバーテイクブーストとも言える「PLUS SPORT」ボタンが装備され、それを押すと3リッターV6エンジン並みの加速力が得られるというギミックを与えられていたが、じつはアクセルを全開にすれば同じパワーが引き出せ、プラスαのパワーブーストではなかったことが災いしていた。

 そしてホンダは現在もNSX をハイブリッドスポーツとして販売している。その走りは国内の一般道では正直素晴らしいハンドリングと動力性能レベルに達したと感じた。

 しかし不安な面もある。それは前輪を駆動するモーター。リダクションギア(減速歯車)を持たない車軸直結(クラッチ介入)機構のため、モーターがパワーを発揮できる回転数上限つまり時速180kmまでしか機能しない。180km/h以上の速度域になるとフロントのモーターはただの重量物となってしまうわけだ。180km/h以上の速度が出せるサーキット走行や独・アウトバーンの速度無制限区間ではこれは大きなハンディとなりえる。180km/hまで4輪駆動に圧倒的なトラクションと安定性で速度を上げてきて、それを超えると後輪2輪駆動の不安定な状態になってしまうのは不安が残る。

 こうしてみるとハイブリッドスポーツで本当に「走りがいい」と評価できるモデルは今のところ存在していないと結論づけるしかない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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