自動運転化は運転下手の救世主じゃない! レーシングドライバーが「手放し運転」を経験して感じた恐れとは (2/2ページ)

安全に扱うためには運転スキルが必要!

 システムがここまで進化してくると、今度は扱うドライバーも同様に習熟していかなければならないだろう。現在も多くの新型車にはACCが標準装着されるようになっていてドライバーの疲労軽減に大きな効果を発揮しているが、ACCでも安全に扱うのには熟練の運転技術が必要だ。ドライバー自身が周囲の交通環境を注意深く監視し、システムがアシスト不能に陥りそうな場合を先読みして、運転介入に備えていなければならない。それには相当運転に習熟している必要がある。

 だから運転ビギナーやサンデードライバーが安易にACCを使うことには懐疑的な意見を持っている。もし急にシステムがカバーできない状況が発生したら、ドライバーが咄嗟に判断し状況に適した運転操作を自らが引き継がなければならないのだから、それには高い運転スキルと経験値が必要なはずだ。現在のACCでもそうした対処は難しいのだから、これがレベル2とはいえシステムが手放しを許容し、ドライバーが運転操作から解放されている時に緊急事態が起こり適切な対応を求められても、多くの場合は不可能に違いない。

 メーカーはつねに運転に注力し、システム作動中でも運転操作に戻れるよう準備をしていなければならないと解説しているが、アメリカでテスラの運転者がシステムを作動させて居眠りしたり読書したりしていて大事故を引き起こした例をみると、不安を覚えずにはいられない。ACCレベルでも急に状況変化が生じたときには慌ててしまうケースも起こりえる。それが手放しを許容されている状態から突然の状況変化に、アマチュアドライバーが瞬時適切に運転に戻れるとは到底思えないのだ。

 たとえばタイヤが突然バーストしたら、大きな障害物が突然走路に落ちて来たら、緊急ブレーキでも止まり切らなかった時ハンドル操作で適切な方向へ回避できるか。二次衝突への対応も必要だ。そうした緊急事態を想定した時の対処を訓練し、適応力を身につけたドライバーでなければ、とても安心して任せられないし同乗しているのも不安になる。

 教習所ではそうした緊急回避は教えないし、メーカーが積極的に訓練環境を整備し、専用のライセンスを発行するなどする必要があるのではないだろうか。

たとえばドイツの高性能車メルセデスAMGでは通常250km/hで作動する速度リミッターが装着された車両が用意されるが、AMGドライビングアカデミーを受講し、サティフィケーションカードを受けるとリミッター解除された車両を購入できる。ACCや安全運転支援システムを安全的確に使いこなせるような教育プログラムを、メーカー間の垣根を越えてでも実施していく必要がそろそろあるのではないかと考えている。

 将来自動運転レベル3以上が実際に市販される時が来るとしたら(とても実現できると思っていないが)、専用の運転教育を受けることを必須とすべきだし、また車両間相互通信を可能にして信号機や道路標識などとも通信するなどスマートシティ化し、交通社会をゼロから再構築しなければならない。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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海外巡り
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クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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