【正月休みに見てほしい!】レーシングドライバーでさえ見入ってしまう本格的レース映画(前編) (1/2ページ)

レーサーとして体験した現実と見事にマッチした作品

 モータースポーツをテーマにした映画は世の中に数多くあれど、ノンフィクションは別として真実の姿を如実に表している作品は意外と少ない。映画である以上、娯楽性は重要だが、ストーリーは別として描かれるレースシーンがめちゃくちゃではクルマ好きとしては興ざめしてしまうのだ。

 そこで、これまで見た映画と、自分がカーレーサーとして体験した現実とが見事にマッチして表現されている幾つかの名作を紹介してみたい。

その1「栄光のル・マン」

 ご存じル・マン24時間レースを舞台に故スティーブ・マックイーンがレーサー役を演じて話題となった不朽の名作だ。1970年に封切りされ。国内では1971年に上映された。当時中学生だった僕はこの映画を見てレース界の過酷さとか迫力とか、レースマシンのカッコ良さなどを知った。僕がレースに引き込まれるきっかけとなった映画と言ってもいい。

 このレースのオープニングは米国人レーサーでマックイーンが演じる「マイケル・デラニー」が愛車ポルシェ911に乗ってフランスの田舎道を走りル・マン市に到着するシーンから始まる。もの静かなオープニングシーンはこれから始まる迫力あるレースシーンへの誘いとして、まあよくある手法なのだろうと思って見ていた。しかし、このシーンだけでも今になって見返すとじつに奥が深い。

 まず米国人であるデラニーがドイツの名門・ポルシェチームの一員として採用されていることが興味深い。そして愛車と思われたポルシェ911はおそらくはチームから支給され、移動用に使っていた設定だったと思われる。それはワークスドライバーの恵まれた姿が描かれていたわけだ。

 ル・マンの舞台となるル・マン市に到着したデラニーはとあるレストランの見える場所に911を停め、哀愁に満ちた表情で景色を眺めている。そして彼の脳裏に前年の事故シーンが蘇るのだが、911を停めた場所こそはル・マン最大の特徴である6kmの直線区間ユーノディエールの始まりで、ル・マン通の人には知られるレストランテ「オーベルジュ・ド・ユーノディエール」の見える場所だったのだ。1989年、僕が実際にポルシェ962Cのドライバーとしてル・マンを訪れた時にもこの「オーベルジュ・ド・ユーノディエール」は映画の中そのままにそこにあり(現在も存在し経営も続いている)、そこを通過するたびにその先に続く長い直線区間を走る覚悟を決める場所でもあった。その時初めて映画の中のシーンが現実であったと気付いたのだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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