クルマの自動ブレーキ搭載が義務化は果たして交通事故の減少にはどのくらい効果があるのか? (2/2ページ)

自動ブレーキのみでなくクルマ全体の安全面を考える必要あり

 そこで重要なのは、正しい運転姿勢をとれる運転席だ。ハンドルとペダル操作を正しく行えるようにする、座席とハンドルの位置を調整する機能の充実がはかられるべきだ。

 座席については、前後スライドだけでなく、身長に応じた目線や操作を的確にするシートリフターが不可欠になるだろう。加えて、座面の前後長さの調整機能もあるほうが好ましい。

 ハンドルでは、チルト機構に加えテレスコピック機構が不可欠だ。このテレスコピックが、軽自動車と登録車のコンパクトカーを中心にほとんど装備されていないのが実情だ。

 自動ブレーキが、場当たり的な安全装備という理由がここにある。そもそも、ペダル踏み間違いを起こしやすい運転姿勢をさせておきながら、踏み間違えたらブレーキを自動で掛けますというのでは、本末転倒だ。また、センサー機能は万全ではない。

 ペダル配置そのものも、クルマの進行方向に人が正対して着座できる配置とすべきであり、今日なおペダル配置がやや左に寄っているクルマがある。

 視界においても、衝突安全性能や外観造形を優先するため、フロントピラーの太さや角度が良くないことから、前方視界を阻害している新車がいまでもある。

 ここで取り上げたクルマ作りにおける基本的な不備を解消したうえで、自動ブレーキが義務化されれば、相当の効果を上げるに違いない。実際、ホンダのN-WGNは、既存のN-BOXのプラットフォームを活用しながら、ペダル配置の改善やテレスコピックの採用を行っている。開発責任者によれば、それは技術者の意志の問題だと語る。そのうえで、ホンダセンシングの充実をはかっている。

 監督官庁の国土交通省も、自動ブレーキの義務化を推進するだけでなく、根本原因の改善へ向けた指導(テレスコピックの義務化など)を行えないままであれば、監督責任を問われても反論できないのではないか。

 事故ゼロへ、大局での意思統一がなされているなら、原理原則にしたがい、強い意志を持って、人命重視へ向け、原価低減を超えた転換を果たさなければ、自動ブレーキの義務化も志半ばに終わる恐れがある。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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