「環境」と「安全」のジレンマ! クルマのタイヤが削れた「カス」の行方とは (2/2ページ)

しっかりとグリップする天然素材のタイヤの開発が待たれる

 天然ゴムや、天然素材だけでタイヤをつくる難しさは、高いグリップや耐久性の保持にある。それでもダンロップが一度は到達した技術であるから、すべてのタイヤメーカーは改めて100%天然素材によるタイヤづくりに挑戦する意味はある。

 ただし、100%天然素材でつくったタイヤでグリップが落ちれば、安全への懸念の声が出るかもしれない。だが、運転支援の電子制御装置が普及しはじめており、完全自動運転へ向けた技術開発が行われていることを含め、危険に対する車両側の早期発見などへの期待と、100%天然素材のタイヤのグリップとの調和をはかるといった、次世代の安全なクルマづくりに総力を結集することが求められるだろう。

 同時に、超高速走行への高性能化といった考え方も、見直される時期にあるといえる。たとえば速度無制限区間のあるアウトバーンはドイツにしかない高速道路網だ。ほかの欧州諸国では時速130kmに制限されている。米国では州ごとに最高速度の規定に差があるが、それでも欧州並みである。世界がそうした状況にあるなかで、あらゆるクルマの性能がドイツを指標とすることの異常さを認識すべきだ。

 もう一つ、やたらな扁平タイヤ志向も、見直されていかざるを得ないだろう。SUVなどに超扁平タイヤを装着する傾向も考え直されるべきではないか。扁平化し、接地面積の増えたタイヤからのゴムの滓は多くならざるを得ないはずだ。個人の趣味として扁平タイヤを選ぶならともかく、自動車メーカー自ら扁平化を推し進める現状は不自然というしかない。かつて、メルセデス・ベンツは扁平率60%がもっとも総合性能が高いといっていた。

 格好いいクルマの造形を創造するカーデザイナーも、扁平タイヤを前提としたスケッチからの脱皮が求められそうだ。

 環境や安全への課題を含め、クルマの在り方をこれまでの延長ではなく、目標設定をし直すことが、クルマとそれを走らせるタイヤを存続する要になっていくだろう。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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