「本物のミッドシップ」は限界域でも難しくない! レーシングドライバーが語る「残念な」MR車とは (1/2ページ)

スポーツタイプの国産現行モデルでMRを採用するNSXとS660

 自動車のパッケージングレイアウトにはさまざまな形態がある。最近の乗用車はフロントにエンジンを横置き搭載し、前輪2輪を駆動するFFパッケージが主流となっている。FFレイアウトは実用車からスポーツカーカテゴリーまで幅広く採用されるが、それは走りの理想を追求した結果とは言えない。

 もし高性能車で理想的なパッケージングを選ぶとしたら、僕なら迷わずMR(ミッドシップエンジンレイアウト)を選択するだろう。だが、ひと口にミッドシップといっても、話はそれほど簡単ではない。ミッドシップの定義としては前輪と後輪のアクスル間にエンジンを搭載していることが基本だが、その搭載方法にもこだわるべき問題が含まれているのだ。

 国産車のミッドシップモデルをみてみると、現行モデルならホンダNSXとS660の2種類がある。NSXは1990年に登場した初代からずっとミッドシップレイアウトを継承していて、ミッドシップに対するこだわりが感じられるのだ。だがレーシングドライバーとして本物のミッドシップレイアウトを追求したレーシングカーの性能を知っていると、初代NSXのレイアウトには不満を感じる部分もあるのだ。

 分類的にはたしかにNSXはミッドシップの定義に合っていてMRに分類される。だが性能追求の観点からは幾つかの問題点がある。その第一はエンジンを横置きに搭載していることだ。ホンダの場合は初代NSXを登場させるにあたり、FFパッケージの高級セダン・レジェンドに搭載されていたエンジンとトランスミッションといったパワートレインを継承させた。専用のエンジンやトランスミッションを開発したら大幅にコストがかかり、欧州のスーパーカー並みの価格になってしまっただろう。

 およそ1000万円という価格設定は国産車としては異例ともいえる高額な設定だったが、フェラーリやランボルギーニといった欧州のミッドシップスーパーカーと比べたら半値以下の価格でお買い得だったわけだ。この手法は古くからあり、1972年登場のフィアットX1-9やトヨタMR2、米国車のポンティアック・フィエロなどが採用し、一般人にも手の届くミッドシップ車として人気を博した。かくいう僕もミッドシップはF1を始めレーシングカーが採用するレイアウトとして高性能シャシーの基本であることを知っていて、廉価なミッドシップ車に期待していたものだ。

 だがそれらを実際にドライブすると、ミッドシップ=高性能というイメージを大きく崩された。コーナリング特性はアンダーステアからオーバーステアへの変化が大きく、安定して走らせるのが難しい。こうした廉価版ミッドシップを走らせ「ミッドシップは運転が難しい」と印象付けられたドライバーは実際多い。

 幸いにも僕はミッドシップのフォーミュラカーに乗るほうが先で、その次元の高さ、限界の高さ、コントロール性の良さを体感していたから廉価版ミッドシップの難特性をすぐに見破ることができた。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
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趣味
海外巡り
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クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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