レースの「常識」を「理論」で変えた! 「中谷塾」マル秘セットアップの衝撃 (1/2ページ)

レースにおいてセットアップ技術は重要!

 モータースポーツの奥深さは単にドライビング技術の面だけでは語り尽くせないところにある。クルマの基本性能やセットアップによってもハンドリングや速さを変えることができ、コースや天候、走行条件によって最適解を見出だすことも醍醐味となるからだ。

 このなかで、セットアップに着目すると面白い事実がたくさんあるのだが、僕が主宰している「中谷塾」では理論と実績に基づいた秘伝のセットアップ方法を伝授してきた。

 サーキットを走るとき、多くの人はサスペンションの硬さを問題視する。バネを硬くして高速コーナーでのロールを抑え、姿勢を安定させることが狙いだ。それはそれで正しいのだが、たとえば僕が多くの経験を積んだ「ワンメイク」のイコールコンディションによるカテゴリーでは、サスペンションスプリングの変更を認められない場合が多い。ショックアブソーバーやブレーキパッドまで指定されていて、変更可能なのはタイヤ空気圧くらいだ。

 ワンメイクレースはドライバーの運転技術を同条件で競わせるカテゴリーだから、パーツの変更を不可能にするレギュレーションの意味は理解できる。しかし、上級カテゴリーにステップアップしていくにつれ、如何にマシン性能を引き上げるか、ということが重要になり、ビギナークラスのレースにおいてセットアップ技術の基礎を学んでおく事がじつは極めて重要なことと言えるのだ。

 たとえば、1985年に三菱自動車が開催し始めたミラージュ・カップのワンメイクに参戦した時、当時の富士スピードウェイは高速の最終コーナーからストレートへ続く区間が今より高速で、直線速度を稼ぐことが勝利への近道だった。しかし量産車を使うワンメイクレース仕様車は性能品質が均一で、どのクルマも最高速が変わらない。そのため前車の真後ろにつけ空気抵抗を減らして追い抜くスリップストリーム走法が有効となり、毎周スリップストリームを使って競い合っていた。

 そんな状況で少しでも最高速度を高めたいと僕はサイドミラーを折り畳んで走ったことがある。サイドミラーを折り畳むことで前面投影面積はわずかに減少し、空気抵抗が減る。これは空気抵抗値=CD(空気抵抗係数)×A(前面投影面積)という空気力学理論に着想したものだ。さらにCDを減らすべく、ラジエターグリルやフロントバンパーの無用な穴をガムテープで塞ぎ、CD値を少しでも向上させるようにした。

 クルマの前面でははがき1枚ほどの穴が開いているだけで、0.01ほどもCD値が悪化するとメーカー開発者から伺ったことが裏付けとなった。その結果、富士スピードウェイのレースで優勝したのだが、主宰者から次のレース以降、サイドミラーを畳んではいけないと通達が出されてしまった。裏を返せば効果が認められたためとも言えるだろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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