これだけ「リチウムイオン電池」が出回っているのになぜ? クルマが100年前からある「鉛バッテリー」を使うワケ (2/2ページ)

完全にリチウムイオンに置き換えることは不可能だ

 今日スマートフォンは多くの人が所持するが、価格は安くなく、通信料金を含めた経済性で普及をはかっている。クルマの電動化においても、EVもプラグインハイブリッド車(PHEV)も、同等車格のエンジン車に比べ割高な状況で、それが普及の足かせになっている。手ごろな価格で購入できるエンジン車に、リチウムイオンバッテリーを使うと、車両価格の上昇につながってしまう。

 また、リチウムイオンバッテリーのリサイクルについてはまだ技術的にも事業的にも確立されていない面があり、それでも、EVやPHEVでの使用後にはスマートフォン以上の大量の使用済みバッテリーが出回ることになるため、再利用の道が検討され、一部で事業化されている。

 高性能なリチウムイオンバッテリーは、EVで使用したあともなお性能の60~70%は残っており、クルマの利用に適さないだけなので、定置型として活用の場を広げる取り組みが始まっている。たとえば、太陽光発電や風力発電の安定化のため一時的に電力を蓄えておく設備として、あるいは、電動フォークリフトなど小型車両の動力として、また災害の際などにスマートフォンなどを充電できる電源機器としてなど、用途は幅広い。

 リチウム資源は限度があり、世界13億台といわれるクルマすべてをEV化するだけの量はないとされている。そこから、クルマを所有から共同利用に転換していく考えも生まれる。

 鉛も、金属資源として限度はあるが、リサイクルによる再資源化の取り組みが確立しているし、価格や信頼性などさまざまな理由で、エンジン車の12Vバッテリーとしては旧来の鉛酸バッテリーを使うのが理にかなっているのである。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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