「安全性の確保」は理由として成立しない! いまのクルマが年々「肥大化」する本当の理由とは (1/2ページ)

衝突安全性能の基準は高くなっている

 世界中で新車の肥大化が止まらない。同じ車種でありながら、世代を重ねるうちに一つ上級の車格の寸法となってしまっている例は、枚挙に暇がない。一方で小型車が不足してしまい、新たな車種が生まれたり、それまでハッチバック車のみであった小型車に4ドアセダンが追加されたりしている。

 国内外の道路や駐車場の幅は、新車の肥大化に応じて広くなってはいない。国内では、路地でも幅4mとすることが決まっているが、実行できるのは建て替えなどで古い建物が撤去されたときに限られる。また1ブロックか、ある一定の距離で幅の確保ができなければ、道幅が狭かったり広かったりと凸凹してしまうので、たとえ一軒でも古い建物が残ると、何年もの間、道路を拡幅できない状況が続く。

 駐車場も敷地は限られており、個人宅の車庫でも、たとえ建て替えをするにしても住居の広さや部屋数が優先されるので、車庫の広さはあと回しだ。貸し駐車場では一定の敷地のなかで多くの台数分を確保したいため、一台の駐車枠はそれほど広くはならない傾向にある。時間貸し駐車場も同様だ。

 クルマを利用する点から考えても、新車の肥大化は利便性を損ねるばかりである。もちろん、大柄なクルマを好む消費者はあり、その人はもともと大きな寸法の車種を選べばいいだけだ。では、なぜ新車の肥大化が起こり、それが止まらないのだろう?

 理由の一つは、衝突安全性能の基準が高くなっているからだ。より高速から衝突しても、乗員の生命が守られるように規制が強まっている。衝突安全性を高める最大の要件は、衝突エネルギーをいかに車体で吸収できるかであり、潰れても人命に関係ない車体部分をできるだけ大きく確保する必要がある。つまり、車体の大型化だ。世界の自動車メーカーは、交通事故による死亡者ゼロを目指している。このため、車体を大きくするしかない。

 次に、車体を大きくすれば、外観の造形にさまざまな工夫を加えられるようになるとデザイナーは語る。外観に抑揚をつけながら、室内空間を侵食せずに済む。今日、新車の性能はいずれも甲乙つけがたい水準に達しており、競合他社との差別化をどうするかというと、格好いい、あるいは優雅な造形の勝負となっている。車体の大きなクルマほど、造形の工夫がしやすいというわけだ。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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