新型トヨタ・ハリアーを生み出したワンチーム! キーマンが語る開発秘話 (2/3ページ)

チーム一丸となって困難に立ち向かい完成させた

CHAPTER2 挑戦
【途方にくれるような開発テーマを具現化する挑戦が新たな価値を創出】

 開発チームが掲げたふたつの大きなテーマ。そのひとつは、日本人の美意識を大切にしながら作り上げる新しい価値だ。

「モノ価値からコト価値へ。今は、手に入れる喜びよりも、手に入れたモノでどんな体験ができるかを重視する時代です。RAV4はまさにコト価値の究極を目指したクルマ。対してハリアーは、その先の価値を目指したクルマなんです」

 佐伯さんはそう言うと、ここからは単なる自分の妄想のようなものですと前置きし、先を続けてくれた。

「コト価値の先にあるもの。それは『時と人』の価値ではないでしょうか。人間らしさや、時の過ごし方。今の社会は、それが希薄になっている気がします。街のなかで見るクルマの運転からも、それを感じます。本来の日本人らしさって、狭い道ですれ違うときに譲り合う精神だと思いますが、最近は、我先にという場面も多い。社会全体になんとなくギスギスしているような雰囲気もあります」

「そんな空気を変えるきっかけを与えられるクルマを作りたい。ハンドルを握った人が大らかな気持ちになり、優しくなれるようなクルマ。あのクルマに乗っている人ってジェントルマンだよね。そんなふうに言ってもらえるクルマ。それこそが、モノやコトの先にある価値。新型ハリアーは、そんな価値を備えたクルマにしたいと考えたんです」

 それはいわば、人の所作や心のあり方まで変える力を持ったクルマということ。なにをどうしたらそんなクルマを実現できるのか。途方に暮れてしまうような想いを具現化するため、新型ハリアーでは、デザイン、静粛性、乗り味など、あらゆる領域においてさまざまな試みが行われている。たとえば、新開発された「前後方録画機能付きデジタルインナーミラー」もそのひとつだ。

 開発のきっかけは、2017年に東名高速道路で発生した、あおり運転を起因とした痛ましい事故。それはまさに、「日本人らしい譲り合いの精神」が失われてしまったような事故だった。むろん、自動車に責任があるわけではない。だが、事故をニュースで知った佐伯さんは心を痛め、自動車メーカーとしてなにもせずにいていいのかと自問自答した。

「ハリアーに乗ったお客さまが被害者になってもらいたくないのは当たり前。それだけでなく、ハリアーに乗ったら心にゆとりができる、自分の世界がより高みに上がるような、そんな気持ちになれるクルマをと、そう考えたんです」

 そしてスタートしたデジタルインナーミラーの開発だが、当初は反対の声が強かったという。設計を担当した木村有伸さんに、当時を振り返ってもらった。

「高い信頼性を必要とする録画用カメラやミラーの開発は、時間もかかりますし、今まで工場装着していないアイテムで、保証も含めて確認・調整すべきことも非常に多い。車両開発もかなり進んでいる状況での録画機能追加の話だったためスケジュール的にも無理がありました」

 そんな木村さんも、佐伯さんの熱い想いに触れ、心を動かされることになる。

「試しに自分のクルマにドライブレコーダーを付けてみたんです。すると自分の運転が記録されることで、自分を律しようという気持ちが自然に湧いてきました。これが佐伯の言葉の意味するところかと。そこで、ドラレコがどんな使われ方をしているのかを、さらにリサーチしてみたんです。後付け感の強いものが多いことに気付きました。クルマのせっかくのカッコよさが台なしになっているんです。自動車メーカーが作れば、もっと内装に溶け込んだスタイリッシュなデザインにできるはず。これは自動車メーカーがやる価値のあるものだと強く感じました」(木村さん)

 営業サイドとして、デジタルインナーミラー設定の企画に携わった内藤芹香さんにも語っていただいた。

「そもそも販売店にも後付け用品の設定がありますし、正直なところ、佐伯の想いも最初はうまく理解できませんでした。けれどあるとき、ハリアーにかける想いを佐伯と熱く議論する機会があって、ようやく理解できたんです。そこからは、販売促進ツールを作る部署をはじめ、あちこちの部署に足を運び、ミラーの必要性と意味を説得してまわりました。ひとつの装備のことでこんなに何度も行き来して説得するのは初めてでしたね。作る人の熱量の高さがいいクルマを作る。それを肌で実感できたことは、私にとってかけがえのない経験になりました」

 スケジュールが迫るなかでの実現は、仕入れ先との連携も重要だった。

「短い開発期間のなかで製品化するために、いつも以上に密に連携を取りました。普段ならこちらでほとんどの仕様を決めますが、今回は仕入れ先様の作りやすい方法も積極的に取り入れました。そこでよかったことのひとつが、録画機能に特化したことです。音声の録音機能や本体での再生機能を省き、まずは録画をしっかりできることにフォーカスしたんです。自分を律するということを考えると必要十分な機能ですし、それにより短期間での製品化だけでなく、価格への反映を最小に抑えながら標準装備することができました」(木村さん)

 これは余談だが、かつての日本の伝統家屋では、もっとも大切な和室に床の間が設けられ、床の間を背負う位置は「上座」と呼ばれた。上座に座る主は、家族を率いる責任に背筋を伸ばし、手本となるような所作を心掛ける。昔の日本の住まいには、この上座のように、住まう人の気持ちを整えたり、鼓舞してくれたりする場所や空間がいくつも設けられていた。それは、佐伯さんが目指す人の所作や心持ちを変えるクルマに通じる、日本独自の精神性と言えよう。

 ここで開発チームが掲げたもうひとつのテーマにも目を向けてみよう。日本のモノづくりを応援したいという、トヨタ全体のメッセージ。そこに込めた想いを佐伯さんに語っていただいた。

「社長の豊田はトヨタは国内生産300万台体制を維持することにこだわってきたと社内外に話しています。ハリアーは日本のマーケットに育てられたクルマです。だからこそ、日本のモノづくりをどう支えるかを考えなければいけないクルマです。この300万台という数字は、日本のモノづくりの基盤を支えるために必要な数字です」

「またこの数字はトヨタのみではなくて数多くの仕入れ先さまに支えていただかないと実現できないものでもあるんです。それらの仕入れ先さまのなかには、小さな会社もたくさんありますし、後継者不足や、従業員が集まりにくいといった悩みを抱えているところも少なくありません。それでもすごい熱量でいいモノを作っています。そういう会社ともっと深く手を取り合って、もっともっといいモノを作っていく。それはトヨタにとっても本当に勉強になったはずですし、少しでも日本の企業が奮起するきっかけになればと思いました」

 トヨタ車として初採用となる調光パノラマルーフは、そんな想いが作り上げたものだ。そこで使われる調光フィルムの技術を持っていたのは、社員が20人足らずの小さな会社だ。その技術の採用にあたっては、当初、トヨタ社内の反発が大きかったという。調光ガラスの部品調達を担当した渡辺康行さんに詳しくうかがった。

「そのメーカーは技術はピンポイントで見れば素晴らしいんですが、日程や供給品質の安定性、技術の成立性も不透明だし、どんな課題があるかわかりません。正直に言うと、私自身も不安でした。そんな自分が変わった瞬間は、九州の会社を訪れたとき。技術畑ひと筋の社長とお会いして、熱い想いや技術に対するこだわりに直接触れたことでした。自分もなんとかこの技術を世に広めたい。微力ながらもお手伝いしたい。そう強く思うようになったんです」

 調光パノラマルーフの設計を担当した魚住芳紀さんにもお話をうかがってみよう。

「もともとは建材用として使われていた技術で、動きや振動があるクルマのような厳しい環境の使用は想定されていませんでした。クルマで使おうとすると、はるかに厳しい要求値が必要になります。実際、開発が始まるとすぐに、気温がゼロ度以下だと液晶が硬くなってしまい、すぐに変化するはずの色が変化しなかったり、変わってもゆっくりだったりといった問題が生じました。自動車用として必要な性能をイチから検討しなければならなかったんです。けれどその会社はあきらめることなく、50種類以上もの試作品を作ってくれたんです。小さな会社ならではのフットワークと、熱い情熱があったからできたことだと思います」

 どんなに素晴らしい技術も、ユーザーに使われなければ意味がない。そのためには価格を抑える努力や工夫も不可欠だ。パノラマルーフとインナーミラーの開発の取りまとめ役を務めた製品企画の寺岡寿美江さんは、次のように語る。

「コストのバランスはすごく重要でした。従来なら、設計と調達の部署にお任せとなる要件ですが、今回はあらゆる部署でアイディアを出しながら取り組みました。そのために大勢の人を巻き込み、応援団を作る活動までしたり。結果、新型ハリアーの上質な空間にすばらしくマッチするものができたと思います。遮光した状態は障子を通したように柔らかな光となり、日本的な美の表現にもなっています。光を取り込みたいけれど直射はジリジリ感が不快だし、外からの目線も気になるという女性も多いのですが、そこにも応えられるアイテムだと思います」

 製品企画、デザイン、設計、実験、生産技術、工場、営業など、あらゆる領域が一丸となって取り組む開発体制。佐伯さんが「ワンチーム」と名付けたその体制は、今回のプロジェクトでは必要不可欠な体制でもあった。


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