なぜ現行クラウンは低迷する? 「SUV化」での「存続」に意味はない! (2/2ページ)

SUV化で販売は回復するがそれはもはや「クラウン」ではない

 3つ目は直近の話だが、2020年5月以降、トヨタの全店が全車を売る体制に移行したことだ。従来のクラウンはトヨタ店の専売で、全国に約900店舗を展開していた。それが今は全国の4600店舗が扱う。販路が拡張したから、クラウンが売れ行きを伸ばす可能性もあったが、実際はアルファードやハリアーといったほかの上級トヨタ車にユーザーを奪われた。今ではヴェルファイアも、姉妹車のアルファードと比べて、12%程度しか売れていない。

 クラウンを扱うトヨタ店では「以前ならお客様がトヨペット店のアルファードやハリアーに乗り替えようとした場合、(ほかの店舗にユーザーを奪われるのは困るから)いろいろな条件を出して引き止めた。しかし今はご希望に沿ってアルファードやハリアーを販売できる」という。全店が全車を扱う体制では、トヨタ車同士の販売格差が広がり、クラウンは顧客を奪われる立場になった。

 それならクラウンを廃止する選択もあるが、60年以上の伝統ある車種だから、廃止は避けたい。その結果、人気カテゴリーのSUVに方向転換するアイディアが生まれた。

 ハリアーよりもさらに上級なSUVを開発すれば、売れ行きはある程度伸びるだろうが、それはもはやクラウンではない。セダンは全高が1500mm以下に抑えられ、後席とトランクスペースの間には隔壁もある。セダンのボディは低重心と高剛性を併せ持つことで、高重心のSUVよりも左右に振られにくく、前後輪の接地性も優れている。

 この優れた走行安定性と乗り心地の両立、いい換えれば安心と快適がセダンの特徴だ。長年にわたって築かれたクラウンの価値も、セダンであることを前提に成立している。それを放棄してSUVに切り替えても「クラウンの価値」は見い出せない。

 現行クラウンは、先に述べたとおり、過去に見られなかった思い切った試みをたくさん行った。未曾有のことだから、売れ行きが下がることも考えられる。諦めるのはまだ早く、ロイヤルサルーンの復活など必要な軌道修正を行い、もう少しセダンで頑張ってみてはどうだろう。クラウンはそれだけの価値を備える日本車の主役だ。


渡辺陽一郎 WATANABE YOICHIRO

カーライフ・ジャーナリスト/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ(2010年式)
趣味
13歳まで住んでいた関内駅近くの4階建てアパートでロケが行われた映画を集めること(夜霧よ今夜も有難う、霧笛が俺を呼んでいるなど)
好きな有名人
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