製造から廃棄までを考えるとEVの「CO2排出量」は少なくない! それでも電動化を進めるべき理由とは (1/2ページ)

目先の数値よりも10年後を見据えて考えなければならない

 クルマの環境性能を図るうえで、ウェル・トゥ・ホイール(Well to Wheel=油井から車輪まで)や、ライフ・サイクル・アセスメント(LCA=資源採取からリサイクルまで)を検証し、評価すべきという。

 たとえば、エンジン効率を高めるSKYACTIVを開発し、実用化したマツダは、ウェル・トゥ・ホイールで試算すると、最高の熱効率を実現したエンジンと、電気自動車(EV)の二酸化炭素(CO2)排出量はほぼ同等になるとの見解を示した。マツダ初の市販EVとなるMX-30の市場導入に際しては、LCAの観点から欧州へはEVのみの販売だが、国内へはマイルドハイブリッド車を併売するとしている。国内は、火力発電の依存率が80%と高いからだ。

 トヨタも、欧米や中国へのEV導入を優先し、国内へは超小型EV(C+pod=シー・ポッド)のあと、2030年までにEVの導入を計画するとしている。これは、地域ごとの環境政策の違いに応じた対応だ。そして、電動化といっても地域の市場にあわせたさまざまな選択肢があることがよいとしている。

 走行中の環境性能だけでなく、製造や排気の段階での環境への負荷も考慮したり、地域の発電の燃料構成を踏まえた車種を導入したりするなど、状況をよく考慮する必要があるのは事実だ。しかし、そうした試算や市場動向は、過去の実績や、現在の状況のみで結論付けられていることが多い。

 クルマは、住宅に次いで永く使われる可能性のある耐久消費財だ。食べ物や衣類などとは違う。乗用車でも10年使われることが稀ではない耐久・信頼性を持つ。ならば、少なくとも10年後の社会情勢も視野に入れた考察が必要なのではないか。

 たとえばエンジン車とEVのCO2排出量に関しても、いま国内では2011年の東日本大震災での福島第一原子力発電所事故を受け全国の原子力発電は一時停止となり、発電の電源構成は80%以上を火力に依存、それは中国を上まわる。しかしその内訳をさらに見れば、日本の火力発電は天然ガスが主体であり、中国は石炭である。燃料の違いによってCO2排出量は異なり、火力というひと言で評価することはできない。石炭火力発電のCO2排出量は、天然ガス発電の2倍近くにおよぶ。

 そうした日本の電源構成は、2030年の政府のエネルギー計画では45%近くを再生可能エネルギーと原子力発電による排出ガスゼロを目指しており、9年後には電気の質が変わる可能性がある。

 原子力発電に対する疑問の声はなお大きい。だが、欧米や中国では、福島原子力発電所の古い形式ではなく、より安全性の高い第4世代と呼ばれる原子力発電の研究・開発が政府の支援で進められているのである。なかでもトリウム熔融塩炉という方式は、たとえば東京都庁のそばに建設しても心配はないと研究者が述べるほど、既存の軽水炉に比べ安全性の水準が高い。たとえば、東日本大震災と同じ被害にあったとしても、トリウム熔融塩炉は、固体燃料を使い水で調整する軽水炉と異なり、液体燃料を高温で使用するため、事故の際にはメルトダウンせず、核分裂反応は停止する仕組みである。時代は変わるのだ。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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