クルマも素材から環境保全に取り組む時代! それでも「脱プラスチック」に立ちはだかる「壁」とは

自動車でもプラスチックを減らす動きが見られるようになってきた

 マイクロプラスチックの海洋汚染が問題となり、プラスチック削減が動き出している。プラスチック(樹脂)とは、熱や圧力をかけることで成形加工できる高分子物質を指すが、種類がふたつある。ひとつが天然樹脂で、もうひとつは合成樹脂だ。このうち、石油化学から生まれた合成樹脂が金属の洗面器やバケツなどに替わって利用されるようになり、現在では身のまわりのさまざまなものが合成樹脂でつくられている。

 クルマも、ダッシュボードなどの内装部品はもちろん、バンパーなども樹脂製とすることで、軽くしたり、部品点数を減らしたり、軽い接触であれば大きな傷になりにくかったり、物によっては復元性を持つフェンダーなども用いられてきた。

 一台のクルマでは、プラットフォームやサスペンション、エンジン、外板などの金属部分、あるいは配線などを除くと、その他多くの部品がプラスチック製だ。プラスチックは金属より軽い傾向にあるので、重さで比較すれば使用量は軽いかもしれず、かといって使われる面積で比較すればいいのか、その他材料との比率を表すのは比較が容易ではない。それでも、かなりの部分がプラスチック製であるといえる。

 石油からできた合成樹脂のプラスチックは、そのまま廃棄すると自然に戻ることがないため、処分は素材へのリサイクルや焼却によってきちんとなされなければ、ずっと残ってしまうことになる。たとえ地面に捨てられても雨が降れば雨水が流れ、下水道を通じて海へ流れ出す可能性がある。海に流れ出すと、波によって次第に細かくされ、マイクロプラスチックとなって魚などに捕食され、その魚を人間が食べるといったことにもつながりかねない。それが将来的に健康被害を及ぼすことが考えられる。血液に含まれれば、産まれてくる子どもにも影響を及ぼす。

 そこで、プラスチックの利用を減らす取り組みがさまざまに始められている。クルマでも、植物から作られた天然樹脂の活用が以前から進められてきた。しかし、それらは表面の処理が滑らかで美しくなりにくく、クルマの外装はもちろん内装でも目につきにくい場所にのみに使われてきた。また、植物を育てるところから始まるので生産にも手間がかかり、原価の高い部品となっていた。

 そうしたなかで、積極的に天然素材を活用した例が、BMWの電気自動車(EV)であるi3だ。ダッシュボードやドアトリムにケナフを使った素材を用い、座席はペットボトルなどからのリサイクル素材を使っている。ドイツのライプツィッヒの工場で生産される際には、100%再生可能エネルギーによっており、部品素材の95%がリサイクル可能であるなど、i3は単に排出ガスゼロのEVであるだけでなく、全方位での環境保全に取り組んだEVだ。

 こうした取り組みにより、リチウムイオンバッテリーの原価だけでなく全体的に車両価格に影響を及ぼすこともあるだろう。だが、これからの新車開発や生産では、エンジンかモーターかの論争だけでなく、持続可能な未来へ向けたクルマの在り方や価値を問う必要がある。それが、近年注目を集めるSDGs(持続可能な開発目標)でもある。そこを消費者も理解し、なおかつ選ぶ基準のひとつとしていくことも将来につながる行動となる。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

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