【試乗】GR86もBRZもMTもATも全部乗ったぞ! 「速く」「扱いやすく」進化した走りを詳細リポート (2/4ページ)

ライントレース性が素晴らしいBRZ

 まずはBRZのマニュアルトランスミッション車に乗ってみた。マニュアルトランスミッションは従来のものを引き継いでいるが、4速にカーボンシンクロを採用するなど強化されている。これは主に動力性能の向上に合わせた面と、従来モデルから弱点として指摘されていたところを補強したいという意味合いを含みもつ。また1速から6速までギヤ歯面をショット加工し強化していることも、強固なトランスミッションとして成立させるための手段として採用している。

 ギヤのシフトフィーリングはショートストロークでゲート感がしっかりしており小気味よくシフト操作が可能だ。強化されたクラッチの好作用もあり発進は非常にスムースで半クラッチも行いやすい。このクラッチのペダルフィーリングもしっかりとした踏み心地に改善されている。

 エンジンはD4らしく従来以上にシャープかつパワフルに噴き上がる。1速2速とシフトアップして1コーナーを目指すと、すでに車速が100km/hに達している。動力性能の向上は圧倒的といっていいだろう。0-100km/h発進加速タイムは6.3秒と公表され、これまで不足を感じていたが力強さが一気に解消され、胸のすく加速感が得られる。

 BRZはさらにエンジン音を作り出していてその音量がかなり大きい。ちなみにサーキット走行に備え、ドライブモードではトラックモードを選択している。トラックモードはトラクションコントロールやVSCの作動介入を大幅に遅らせ、パワースライドやドリフトアングルを維持する走行が可能になるが、最終的にはスピン抑制制御が介入してクルマを安定化させる。一般のドライバーがサーキット走行など楽しむ時にはトラックモードを選択しておけば安心してサーキットを攻めることができるだろう。

 そのまま第1コーナーをクリアして加速を続けていくと、第2コーナーまでに速度計は163km/hまで高まることが確認できた。これは従来のモデルが150km/h前後の到達速度だったことを思うと相当な動力性能の向上といっていい。しかも第2コーナーから第3コーナーにかけては上り下り勾配で、かつ緩やかなコーナーが形成されている非常に難しい複合コーナーであるにもかかわらず、新型BRZはスロットル全開のまま安心して加速を続けることができた。

 ライントレース性も正確で素晴らしい操縦感覚が得られている。これはシャシー性能の向上も大きいが、タイヤが従来のミシュランのプライマシーからパイロットスポーツ4にグレードアップされたことが大きな効果として認められる。一方で、前後が215の同サイズという同一サイズであることで、走り込みを続けると後半は後輪の熱垂れによるグリップの落ち込みが気になる部分も感じられた。ただ絶対的なグリップの向上はそれを補っても余りあるもので、ハンドリングとしては非常にコントローラブルな特性を見せた。

 ためしにドリフトアングルをつけて走らせてみると、テールのリバースは従来モデルのように急激に起こらず、フロントのステアリングの切り込みに応じて立ち上がるヨーモーメントによりリヤが穏やかに流れだすといった掴みやすい特性だ。

 BRZではフロントのハウジング(アップライト)をアルミダイキャスト製としており、ここがGR86とはまず違う部分である。GR86は従来のスチール製のものを継承しており、 トヨタのテストドライバーによれば操舵フィーリングの違いからスチール製の物を選んだという。

 一方BRZは、アルミによる軽量化で片側1.3kg、左右両側で2.6kgのバネ下重量軽減を選び、アルミ製のハウジングを採用している。アルミダイキャストとしたことでステアリングの応答性が穏やかになり、また舵角を切り込んだ時点での応力の収斂性も穏やかで、ステアリングには常に操舵力や保舵力が適度に感じられる好フィールなものに仕上がっていた。これにより狙ったラインを正確にトレースしていくことが可能で、とくにサーキット走行においては好まれる特性であるといえる。

 S字カーブでは、リヤがややナーバスにブレイクする場面も見られる。これはリヤスタビライザーの取り付け位置をBRZはボディ側にピックアップを設けていること、またリヤのスプリングレートを35kgとして、GR86よりもややソフトにセッティングしていることでロール剛性とスタビライザー作動のフリクションロスが発生し、若干の遅れとなってリバース方向に車を移行させていると考えられた。フロントの追従性が良いだけに、よりコーナーの奥深いところでその傾向が顕著に表れるのは惜しいところだ。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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