「これが自動車工場?」圧倒されるハイテクの館! 日産「インテリジェントファクトリー」が凄かった (1/2ページ)

この記事をまとめると

■カーボンニュートラル実現に向けた最先端の自動車工場を日産が公開した

■ITやAIなども積極的に利用した最新技術が豊富な生産ラインを構築

■世界初となる技術も工場内や生産ラインに多く取り入れられている

人にも環境にも優しい最先端技術が集結したハイテク工場を見よ!

 言うまでもなく自動車業界は大変革を求められています。そのキーワードとなるのは気候変動対策としてのカーボンニュートラルで、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることは日本政府の目標ともなっています。

 これは電気自動車などゼロエミッション車を作ればいいのではなく、生産から廃棄までライフサイクルで考えて、CO2排出量を削減することが求められるという話です。そのため生産工場もドラスティックに変化・進化しなくてはなりません。

 また世界的に少子高齢化は進んでいます。フォードTの時代から続く、ベルトコンベアの周りに人員を豊富に配置した労働集約型の生産工程は持続可能なシステムではないといえます。

 雇用確保と環境対応という2つの大きなテーマを解決することが、次世代の自動車生産工場には求められるのです。

 果たして、それはどのような姿になるのでしょうか。

 日産が栃木工場に新設した「ニッサン・インテリジェント・ファクトリー」を見学することで、そうした未来を感じることができました。この工場は新型電気自動車「アリア」を生産するファクトリーという意味でも注目です。

 さて、カーボンニュートラルについては、大きく2つのアプローチがあります。

 ひとつは消費エネルギーを減らすこと。ふたつ目が使用するエネルギー源を再生可能エネルギーや代替燃料へシフトすることです。

 そのポイントは電化にあります。メインとなる再生可能エネルギーは結局、電気に変換されるからです。

 現在は、金属の鋳造工程において天然ガスなどを用いて熱融解していますが、それを遠赤ヒーターに変える試みがなされています。また、工具類もエアツールが主流ですが、電動タイプへ変えていく方針ということです。

 カーボンニュートラルの代替燃料(主に植物由来のエタノールを想定)についても燃やすのではなく、燃料電池ユニットを使って電気として利用することを日産は考えています。じつはエタノールを使った燃料電池というのはクルマを走らせる技術として開発していた経験がありますから、定置型で運用するというのは積み重ねてきたノウハウが使えるというアドバンテージが日産にはあるのです。

 ニッサン・インテリジェント・ファクトリーは、まだ外部グリットからの電力供給を受けていますし、天然ガスなどの燃料も使っていますが、その工程において電化が進んでいることは、ごく一部を見学しただけでも感じることができました。とにかく、エアツールに独特のシューというエアを抜く音が聞こえてこないのです。

 もう1つ、少子高齢化社会における雇用問題については、自動化を進めることで高度な習熟を必要としない生産工程とすることを基本としつつ、習熟が必要な部分についてはMR(ミックスドリアリティ)技術を活用したトレーニングの採用を進めています。

 自動化の一例として、サスペンションの自動締め付け&アライメント調整、コクピットモジュール(インパネなど)の自動組付けなどが挙げられます。非常に微妙な力加減が必要なヘッドライニングの組付けも自動化しているのは日本初です。

 これらの作業はそもそも作業者に負担が大きく、自動化することで労働環境の改善も期待できるというのは、雇用確保の点からも重要なポイントです。新設されたラインは機械油の臭いもほとんどなく、非常にクリーンな環境となっていたことも見逃せません。

 そのほか塗装の仕上がりを自動的に確認して、作業者の腕についたスマートフォンに問題のある箇所を知らせるシステムは、これまで作業者の集中力に頼っていた部分の一部を機械化することで、労働負担を軽減すると同時に、品質向上にもつながっています。

 トレーニング面でのMRテクノロジーの採用においてはマイクロソフトのHoloLens 2を利用したものです。たとえば品質チェックのトレーニングにおいては、駆動ユニットを目前にすると、どの部分をチェックすればいいのか仮想空間的に表示した矢印やテキストによって指示があり、その通りに学んでいくというもの。ペーパーのテキストや指示書に比べると格段にわかりやすく、実際に習熟期間は従来の半分(10日が5日になったイメージ)になるといいます。

 こうした習熟期間の短縮は、パンデミックなど予期せぬ事態において人員配置を変えるなど柔軟な対応がしやすくなるというメリットもあるというのは、コロナ禍だからこそ重要度を増して感じます。


山本晋也 SHINYA YAMAMOTO

自動車コラムニスト

愛車
スズキ・エブリイバン(DA17V・4型)/ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP(SC82)
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モトブログを作ること
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