開発トップに直撃! ネクセンタイヤが欧米で高評価を得られる理由

もともとミシュランから技術を教わっている

 現在はモータージャーナリストをしているが、その昔はタイヤメーカーのテストドライバーをしていた筆者から見て、ネクセンは魅力的な乗り味のタイヤを出している。主戦場は北米と欧州だが、本拠地は韓国。規模はそう大きくないネクセンが魅力的な商品を送り出す原動力はどこにあるのか? そこを探るべく、ネクセン中央研究所の所長にオンラインでインタビューを試みた。

「森田と言います。現在ネクセンイヤのCTO(最高技術責任者)で技術研究所の所長をしております」

 おっと日本人だ。通訳を介すことなく話しができるのはラッキー。

「CTOとは技術部門のトップだから誰にも制限されることはないので、今日はなんでも話しますよ」と、嬉しいお言葉もいただいた。

菰田潔(以下、菰):森田さんのタイヤ業界における経歴を教えてください。

森田浩一所長(以下、森): 東京農業工大学 有機合成化学の出身で、1986年にブリヂストンに入社しました。入社後はポリマーの重合触媒の研究をしていました。2016年にブリヂストンを辞めて、ネクセンタイヤには2020年4月入社です。

菰:ポリマーを合成ゴムと考えると、要するに良いトレッドゴムを作るための研究ということですね。

森:基礎研究なのですが、いま流行っている低燃費用のトレッドゴムの特許を若いときに70件くらい取りました。そこから派生したものが、今の低燃費タイヤのトレッドに使われている、シリカが入ったポリマーとして活用されています。

菰:たしか、シリカを最初に使ったのはミシュランだったような……。

森:そうです。このときミシュランがシリカに向かってくれたから、私の特許も活きたんです。

菰:じつは以前から、ネクセンのタイヤの乗り味はミシュランと似ているなと感じていました。

森:鋭いですねえ。ネクセンタイヤはもともと、ミシュランから技術を教わっています。だから配合も構造も欧州風。乗り味も似ていると思います。

菰:ネクセンタイヤのトレッドゴムにもシリカが入っていますか?

森:シリカは入れれば入れるほど転がり抵抗が小さくなり、燃費が良くなります。またウエットブレーキの性能も上がりますから、ゴムを混ぜるときにシリカはたくさん入れますね。

菰:ああ、バンバリーミキサー(※タイヤの素となる混合ゴムを練るための機械)ですね。

森:いえ、それは日本や北米では使いますが欧州では使ってないんです。もっとシリカが混ざりやすいインターメッシュという回転するローター型を使います。ネクセンもインターメッシュで、10年前からインターメッシュをふたつ繋げるタンデムミキサーを使っているんです。

菰:ネクセンのタイヤ工場は最新鋭の機械を揃えているのですね。

森:最新鋭というだけでなく、一番上等な機械を導入しています。“松竹梅”で言うと“松”。古い機械を修正しながら使うのではなく、最新鋭の一番良い機械を揃えれば、スタッフの状況に影響されることなく、良いタイヤが作れるからです。“梅”の機械と比べると倍の価格ですが、その価値はあります。15年くらい使って古くなったら、そのときにまた最新鋭の“松”の機械に入れ替えることで、品質を高く保てるのです。

菰:ネクセンタイヤの工場には人の数が少ないと聞いていますが……。

森:極端に少ないわけではないんです。一般的なタイヤ工場に比べれば少ないですが、3〜4割減くらいでしょう。

菰:品質の高いタイヤを供給できるという証明のひとつとしてOEM(※新車装着)に承認されることがあります。とくに欧州では非常に重要になっています。ネクセンタイヤは多くのカーメーカーに採用されていますが、なかでもポルシェ社に承認されていることで驚きました。

森:私がネクセンタイヤに入る前のことですが、全社を上げてポルシェの承認を取るために努力をしたようです。技術部門の半数がポルシェ用タイヤに専念しましたし、テストドライバーはブリヂストンがポルシェに採用されたときに担当したドイツ人スタッフに来てもらっています。彼をドイツ・ニュルブルクリンクに駐在させて、現在もテストを続けています。

菰:販売店やアフターサービスのネットワークがないと、なかなかOEMは受け入れてもらえないと聞いたことがあるのですが、ネクセンタイヤは欧州でもそんなネットワークがあるのですか?

森:そこまで広いネットワークがあるわけではないですが、そのあたりの条件がシビアなトラック・バス用タイヤは一切やっていません。乗用車用タイヤだけなので、そこは問題になっていません。

菰:なるほど、乗用車用タイヤに特化しているわけですね。

森:他のメーカーでは考えられないことだと思いますが、OEMタイヤと市販用タイヤ(補修用タイヤ)のスペックに差がないのもネクセンタイヤの特徴でしょう。OEMに対して市販用タイヤの性能が落ちる、ということはないです。

菰:それはユーザーにとってはありがたいことですね。

森:正直、コスト的には厳しいですが、良いタイヤを作ることのほうが優先されています。ひとつの例として、ポルシェ用のSUVタイヤのトレッドコンパウンドと市販のオールシーズンのタイヤのトレッドコンパウンドはほぼ同じものです。だからオールシーズンタイヤでもネクセンタイヤはリニアに、シャープに曲がってくれます。今はポルシェ社でタイヤチェックを担当していたドイツ人もネクセンタイヤのスタッフとして参加しているので、乗り味に関しては彼が厳しくチェックしています。

菰:ますます欧州風の乗り味になっていきますね。さて、今後はどういった方面に力を入れていく予定でしょうか?

森:奇策ではなく、正面を切って良いタイヤを作っていきたい。数値だけでなく乗り味を本質的に極めようと思っています。ミシュランと対等に戦えるタイヤで、ネクセンタイヤの方がお値打ちというのが狙いです。それからEV用タイヤも重要です。ポルシェ・タイカンやテスラなど、重量級でハイパワーのEV用タイヤは、これまでとは違う性能が必要なのではないかと思っています。
またモータースポーツもやっていきます。じつは私が最初にブリヂストンに入ったのは、F1をやりたかったからです。担当させてもらった2005年は、新しいレギュレーションにマシン、タイヤともにうまく対応できず、1勝15敗。2006年は8勝8敗でしたが、今でも当時のフェラーリF2005の模型を見ながら、“いまの仕事でやり残したことがないか!?”と考える戒めにしています。ネクセンタイヤでは現在、日本で86/BRZレースに参戦していますが、ニュルブルクリンク24時間レースにも参戦しています。ネクセンタイヤらしく、下のクラスから順番にトライし始めています。

菰:こちらが心配になるほどネクセンタイヤの情報を教えていただき、ありがとうございました。次回は話だけでなく、実際に試乗しながらお話したいですね!


新着情報