【試乗】日本再上陸の「ヒョンデ」が放つ2台の走りは合格点だった! 課題は「アフターサービス」と「インフラ」 (1/2ページ)

この記事をまとめると

■13年ぶりに上陸したヒョンデの2モデルに試乗

NEXO(ネッソ)はトヨタMIRAI以外で唯一の水素自動車だ

■大本命のBEV「IONIQ5」はデザイン性を突き詰めた1台となっている

世界で2車種しかない市販の水素自動車をヒョンデが日本で販売

韓国の自動車メーカーHYUNDAI(ヒョンデ)が再び日本市場に参入することとなった。その旗頭として送り込まれたのはNEXO(ネッソ)という水素燃料電池車(FCV)と電気自動車(BEV)のIONIC(アイオニック)5の2モデルである。今回この2車をさっそく試乗することができたのでリポートしよう。

まず NEXOだ。そのスペルはNEXOで韓国や欧米では「ネクソ」と呼ばれているが、日本では言葉の意味合いから「ネッソ」と呼称する呼び方に改められている。

NEXOは 総容量156.6リッター(6.33kg)の三分割された水素燃料タンクを持ち、燃料電池スタックで95kWの発電をし、前輪をモーターで駆動する。世界では、これまでのところこのFCV車はトヨタのMIRAIとホンダのクラリティしか存在していないが、一般に販売されているのはトヨタMIRAIのみである。したがって、NEXOの参入により世界で2例目の量販FCV車となるわけだ。

その外観は韓国車らしい非常にデザイン性に富んだスタイルで、 SUVとしてのパッケージングが採用されている。やや車高とルーフ位置の高いSUVスタイルで、2列シートに加え荷室容量も大きく、その辺はトヨタMIRAIがセダンボディで水素燃料タンク等の配置によりトランクスルー機構が備わっていないことなどを踏まえると、実用性の高さでは上まわっている部分があるといえる。

さてその走りだが、NEXOは163馬力の電動モーターで前輪を駆動して走るFFモデルである。モーターの制御はこれまでの実績や経験などから充分に吟味され、すでにドライバビリティや完成度は高い。市街地で乗ると、若干スロットルレスポンスの初期応答が良すぎて、日本の歩行者と自動車が混在するような狭い道路交通環境下ではいささかコントロールが難しく感じる部分もあるが、自動車専用道路、山道、高速道路などではとりたてて問題視するような部分は見当たらなかった。

ヒョンデは韓国ではもちろんだが、とくにドイツやアメリカでは非常に多くのユーザーに支持されていて評価も高い。したがって、自動車としての基本的な操縦安定性、走行性能、使い勝手などは十分な実績があり、そのあたりについては疑う余地のないところだ。

実際に走ってみると、山道での操縦安定性、それからドライバビリティなど、非常にスムースでライントレース性も高く、安心して扱える走りに仕上げられていた。ただ、路面が荒い部分へ踏み入れると、ホイールの位置決め等が若干甘く、カタカタとフロアが振動を起こし、またステアリングにも微小なタイヤのブレがシミーとして伝わってくる傾向があった。

NEXOのシャシーは韓国ではすでに2年前に発表発売されているモデルであり、その開発はさらに数年前に及び、最新のものではないということで、その辺が若干走りの重厚さや質感に影響しているのだという。とくに燃料電池車のジャンルで見れば、トヨタMIRAIは 2年前にフルモデルチェンジを機に大胆に進化し、後輪駆動に改められたため、ハンドリング面において非常に優れた評価が得られている。FCV車という意味ではトヨタMIRAIとバッティングするが、FF駆動でSUVパッケージングということで、車格的には競合するモデルとはなりえない。

装備面で見ると、まず室内では液晶のメーターパネルが特徴的であり、また大きなセンターモニターもタッチパネルとして使い勝手がいいが、ナビゲーションは備わらず、自分のスマートフォンを接続して地図を読み込むタイプとなっている。

また、センターコンソールが高い位置に配置されていて、その表面上部にはエアコンの物理的なスイッチやシフトのスイッチ、またモニターを操るダイヤルなどが整然と並べられている。その配置は悪くはないのだが、どれもが似かよっていて判別し辛く、操作するには若干の慣れが必要だ。とくに表面の処理が艶やかで、西日などを浴びると光って文字が読めない。その都度姿勢を落としてスイッチを確認するというのは、本来の物理スイッチの良さからは離れてしまっているだろう。

走行セレクターは、Dレンジ、パーキング、リバース、ニュートラルと4つあり、すべてボタンスイッチで操作性に優れている。Dボタンを押して走り出せば普通の電動車と同じように走行でき、とりたてて運転の難しさを感じない。

今回、日本国内向けということで右ハンドル仕様としてあつらえられ、これはイギリスやオーストラリアなどとシェアしているが、ウィンカーレバーも右側に配置したことで、より日本のマーケットに適合させたと言う。

山道の下り坂部分では、1.56kWhのバッテリーに回生するモードも備わっていて、FCV車でありながら減速回生エネルギーをバッテリーに貯めて活用することができる部分もある。ただ、連続する坂道ではバッテリー容量が小さく、早々に満充電状態となってしまい、そこから先は「回生できません」という表示が出るようになる。その場合はフットブレーキ、つまり通常の摩擦ブレーキで減速を行うことになる。国産車でもハイブリッドやEV系は同様の制御にあるといえるが、わざわざ「回生できません」という表示をするものはあまり見かけたことはない。

とくに箱根の山道の下りではその出現頻度が非常に高く、ユーザーはなんらかのトラブルが起きたのではないかと不安に感じる部分があるかもしれない。そうしたユーザーの不安は現状ディーラーの少なさ、サービス工場の少なさも同様にあるといえる。今回、ヒョンデはその販売ルートをオンラインに限定し、受注から納品まですべてオンラインで管理するという。マンツーマンで面と向かってセールスと商談をするようなことがなく、アマゾンで買い物するような感覚でクルマが買えてしまうのだが、FCV車という特殊性を考えると、果たしてそれで十分に顧客の信頼を得られるかどうか疑問が残るところだ。

また、水素ステーションといったインフラも現状では決して十分ではない。市街地中心に見ても施設は少なく、また夕方5時以降は閉まっていたり土日の週末や祝日など営業していない箇所も多い。水素ステーションのインフラが厳しい国内の現状において、ヒョンデが何らかの解決策を提示しているというわけではなく、あくまで現状の国内インフラのみに頼ったFCV投入であり、クルマの出来の如何よりもそうしたサービス、インフラなどの面で、ユーザーに魅力をどの程度アピールできるか今後の取り組みが重要になると言えるだろう。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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