【試乗】日本再上陸の「ヒョンデ」が放つ2台の走りは合格点だった! 課題は「アフターサービス」と「インフラ」 (2/2ページ)

上陸直後から話題の大本命「IONIQ5」のポテンシャルを探る

次にIONIQ5に試乗する。こちらはバッテリーEVの完全電気自動車である。スタンダードで58kWh、ロングレンジ仕様では72.6kwhの大型バッテリーをフロア下に配置し、前後の車軸間距離(ホイールベース)を3000mmと大きくとっている。2ボックスのボディスタイルのサイドシェルは、一見フォルクスワーゲンゴルフやポロのようなパッケージングに見え、コンパクトカーのような雰囲気を感じるが、実際のところ横幅は1890mmもあり、実車を見ると極めて大きさを感じる。

このIONIQ5には、後輪モーター後輪駆動のRRモデルと、フロントアクスルにもモーターを備えて四輪を駆動するAWDの2種類がラインアップされている。今回試乗したのは四輪駆動AWDモデルであった。前後2モーターを合わせて最高出力は305馬力と大きく、また最大トルクは605Nmと圧倒的で、ガソリンの2リッターターボ4WD以上の動力性能を有しているといえる。ただ、車両重量はバッテリーの重さが大きく2100キロと重いので、0~100km/h加速は5.2秒と俊足だが、運動性能はあまり期待できないと言えるだろう。

 コクピットに乗り込んで見ると12.3インチの大型モニターが正面に2つ横並びで配置され、それはホンダeと非常に似通ったレイアウトに感じられた。また、水平なフロアを生かして固定センターコンソールは存在せず、ベンチシートのように全席左右間で移動ができる利便性もある。

センターコンソール自体は前後に移動する可動式で、それを後ろに下げることによって前席左右間移動が可能になり、また前方に移せば便利な収納が備わった形で左右が独立化されるといった具合だ。

シフトレバーはステアリングホイールの右側、ウインカーレバーの下にレバー状のものが備わり、その棒状の先端のダイヤルを前側にまわせばドライブのDレンジ、後ろにまわせばリバース、先端をワンプッシュ押すとパーキングに入るという非常に車両の動作との関係性の高い理解しやすいものである。これも慣れてしまえば非常に有効であるといえるが、はじめのうちは戸惑ってしまうかもしれない。NEXOのボタン式とも共通性がない。通常ワイパーを動かすようなスイッチがドライブレンジとなっているので、誤って操作しないように慣れるまでは注意が必要だ。

IONIQ5にはドライブモードが備わっていて、エコ、ノーマル、スポーツと3つのモードから選択できる。デフォルトモードはノーマルであり、このデフォルトモードであればWLTCモードで満充電でおよそ 600km近くを走行することが可能になるという。エコモードにすると約5%ほど走行距離が伸びた表示が表れ、またスポーツモードを選択すると逆に5%ほど低下した数値が示されるが、それらはあくまでその時々に限ったことで、その後の走行状態により常に変化するといえる。

たとえば山を登る場面では、バッテリー残量60%でノーマルモードで202kmの走行が可能と示されていたものが、山を登って行くと一気に10km程度の走行距離でも走行可能距離表示は170km程度まで減少する。ただその山を下ってくると、ペースにもよるが逆に残りの走行可能距離が210kmと元の状態より伸びることもあり得るなど、電動自動車というのは走行条件により非常に航続距離が左右されるので予測するのは難しい。

IONIQ5は日本のCHADEMO(チャデモ)に適合するよう仕様が変更されており、急速充電機などのインフラを使用することができる。また、家庭用の200ボルトでの普通充電も行える。さらに、 V2H(vehicle to home)やV2L(vehicle to Load)にも対応し、車内外で100Vの電化製品を1600Wまで使用することができる。この辺は非常時災害予備バッテリーとして備えるという日本特有の電気自動車の活用方法にも応えられるものとなっている。

サスペンションはフロント:ストラット、リヤ:5リンクであるが、プラットフォームがIONIQ5から新しい最新プラットフォームとなり、サスペンションも強化されている。それによりロードホールディングやサスペンション剛性なども高まり、ホイールの位置決めや操舵の正確性なども高まっている。

タイヤはミシュラン・パイロットスポーツが奢られており、コーナリング性能はなかなか優れた敏捷性とライントレース性を発揮してくれた。

スポーツモードを選択してフルスロットルを与えると、テスラ並みの強力な加速Gで全身をシートに押し付ける。そのダッシュの鋭さは四輪駆動の電気自動車ならではのものといえるだろう。また、ADASを利用した最新の運転支援機能を備え、それらは日本国内の使用条件にマッチングさせていて実用性を確保している。

IONIQ5にはナビゲーション機能も備わっており、それらは最新のものにアップデートすることが可能で、さまざまなインフォテインメント機能なども表示されるが、ホワイトベースでグレーの文字表示という液晶画面の表示方法は、各文字の級数も小さく、いささか見づらいものであった。

また、インパネのデザインやシートなどのデザイン性、配色などはハイセンスで好印象だったが、479〜589万円という価格レンジを考えると、重厚さや価格に見合った高級感に乏しい。コンパクトカークラスであれば両手を挙げて称賛できるような成り立ちだが、車体のボディサイズ、そして価格、BEVで比較すれば、メルセデスEQAやボルボC40リチャージ、またアウディQ4 40e-tronなどと比べると質感はかなり低く感じてしまうのだった。

面白いのは、リヤシートが電動で左右独立で前後にスライドし、またそれぞれリクライニング機能を備えていることだ。助手席側後ろの後席は前席背もたれ横にあるスイッチで、ドライバーによって前後に操作することができる。

たとえば、後席に子供や幼児を乗せたときなど、その位置を近づけて安心感を与えることなど工夫がされている。後席の前後スライドは、フロアがフラットになっているからこそ可能となったもので、また3000mmのホイールベースによるスペース的なユーティリティがあるから可能となったとも言える。

実際後席は足もとフロアスペースが非常に広く、またリクライニングを倒して乗り込めば足も余裕で組める。後席ドアのウインドウにはサンシェードも付き、またシートヒーターなどの装備も備わり、快適に過ごせるスペースとなってた。

床下にバッテリーを装備したBEVはだいたいどのクルマも後席のヒップポジションが低く、体育座りをしているようなシーティングポジションを強いられて長距離では疲れるのだが、IONIQ5はヒップポジションが高めで、普通のガソリン車と変わらないような後席での着座姿勢がとれ、快適に過ごせる。

試乗モデルではルーフが全面ガラスのスカイルーフ仕様だったが、その採用により重心位置が高まり、またボディ剛性が少し弱く感じられたところがあった。ドアの開け閉めなどにおいてもあまり剛性感が感じられるものではない。また、ドアの開け閉めのドアハンドルはキーロック解除で外へアクチェーターで飛び出す仕組みが採用されているが、開けやすさはいいとして、ドアを閉める際にこの下に指を入れておくと挟んでしまう。少し余計なギミックであるといえる。

デザイン性は非常に未来感があり、パラメトリックピクセルと呼ぶ個性的なデザインアイコンを活用していて人目を惹く。

果たして今回導入されるNEXOとIONIQ5は日本のユーザーにどの程度受け入れられるのだろう。今回、FCVとBEVという日本の将来的なエネルギー政策に沿った形での商品投入となっているのだが、それに向けては充電設備インフラの拡充やサービス拠点の充実なども重要であり、またFCV車に対しては水素ステーションのさらなる拡充をしていかなければならないだろう。現状、トヨタ1社でその役割を担っている部分をヒョンデがどの程度関わっていけるのかも、今後のヒョンデの日本国内における存在位置を確立する上で着目していかなければならないポイントといえる。

クルマそのものは、NEXOとIONIQ5ともに平均点以上の仕上がりと言えるが、クルマはただ売ればいいだけでなく、そのあとのさまざまなメンテナンスやサービスなども重要である。当面はAnyca(エニカ)などのカーシェアリングを通じてユーザーの試乗希望に応えるとしているが、その展開も首都圏に限られており、ヒョンデが全国的に認知される日が来るまでにはまだ相当時間がかかりそうだ。

なお、IONIQ5はすでに欧米でカーオブザイヤーなどの賞を複数授賞しており、今後は同じプラットフォームをベースにしたIONIQ7やIONIQ9などもラインアップされると予想されている。今後のヒョンデの市場での評価やさまざまなテストステージでの走り、機会があれば国産車との比較なども行って紹介して行きたい。


中谷明彦 NAKAYA AKIHIKO

レーシングドライバー/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

中谷明彦
愛車
マツダCX-5 AWD
趣味
海外巡り
好きな有名人
クリント・イーストウッド、ニキ・ラウダ

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