私失敗しないので! どんなに考えても「やっちまったポルシェ」が見つからなかった (2/2ページ)

ポルシェは失敗しないからこそファンが魅了される

 市場のニーズを見事に捉え、924を成功に導いたポルシェは、その後継車として1983年に944を、そして1991年には968をデビューさせる。

 944のスタイリングは、さらにボリューム感に溢れた、よりスポーツカーのテイストを感じさせるものとなり、フロントに搭載されるエンジンも、のちに紹介する928用のV型8気筒の片側のバンクを使用した2.5リッターの直列4気筒とされた。1985年に誕生した944ターボでは190馬力、1989年デビューの944 S2では何と3リッターの排気量から211馬力を得るなど、パワーはこの944世代で大いに高められ、それはスポーツカーとしての正常進化そのものにほかならなかった。

 そしてポルシェは、その後継車となる968を1991年にリリース。搭載されたエンジンは944S2のそれがベースだったが、可変バルブタイミング機構のバリオカムを導入して240馬力を実現したほか、1993年には50kgの軽量化を果たした968CS(クラブスポーツ)、それをベースに305馬力仕様のターボエンジンを搭載したターボSなどもリリース。1995年まで生産は続いた。

 とここまで、かつての4気筒FR(それから20年くらいして復活したボクスターやケイマンも、「やっちまった」といえるのは、718になってからのGTSを除く壊れたバイクみたいなエグゾーストノートだけだし)ミッドシップやFRモデルを振り返ってきたけれど、本当にポルシェが「やっちまった」モデルを作った例は皆無に近い。

 ならば8気筒FRの928はどうか。928は、実際にポルシェ自身も911の後継車となることを意識して開発を進めたモデルであると言われる。ファーストモデルは、フロントに4.4リッターのV型8気筒エンジンを搭載。最高出力は230馬力を誇り、これに5速MTもしくは3速ATの組み合わせを実現していた。

 そしてこの928もモデルイヤーを重ねるたびに、その正常進化を続けていく。1981年に登場した928Sはヨーロッパ仕様で300馬力と250km/hの最高速を達成したモデル。続く1985年の928 S2では排気量を5リッターに拡大するとともに4バルブを採用し、排出ガス規制の強まる中292馬力の最高出力を維持し続けた。

 1987年に発売された928 S4は、日本でも人気の一台。エアロダイナミクスの向上とともにエンジンを320馬力仕様にパワーアップし、さらなる運動性能の向上を実現している。最終モデルとなった928GTSは5.4リッターに排気量を拡大した、まさに928の完成形でもあり、911にとっても強力なライバル。1992年の時点で294km/hに達した最高速は、他社に対しても大きな影響を与えたことは間違いない。

 リヤエンジンの911でなければポルシェにあらず。その言葉を胸に、ミッドシップとフロントエンジンのポルシェを簡単に紹介してきたが、結論はやはり変わらなかった。ポルシェは商品企画、開発、生産、そして販売のためのプロモーションやカスタマーからの評価においても、完全に「やっちまった」ことがないのである。

 あるいはボクスターとの部品の共用化を積極的に進めたがゆえに、真の911信奉者からもネガティブな意見が寄せられた996型911はどうか。これとてポルシェはこの世代でエンジンの水冷化や新開発のマルチリンクリアサスペンションを導入し、911の進化に大きな節目を生み出している。

 ポルシェのファンがこのブランドに魅了される理由はここにある。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
好きな有名人
蛯原友里

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