1.6リッターだが4モーターで1000馬力オーバー! F1技術で作られたメルセデスAMG「ONE」は異次元の中身だった (2/2ページ)

6つモードで状況に応じたドライビングエクスペリエンスを提供

 ONEには6つのドライビングプログラムが設定されている。「レース・セーフ」、「レース」、「EV」、「レース・プラス」、「ストラト2」、「インディビジュアル」の各々がそれだ。

 ONEは必ずスタート時には前輪のみ、つまりEVの状態で静かに走り出すが、同時にこのとき、触媒コンバーターが予熱される。触媒コンバーターの温度が適正値に達するまではエンジンが始動しないシステムなのだ。

 デフォルトともいえるモードは「レース・セーフ」。これは、オンデマンド・ハイブリッド・ドライビング・モードとオール・エレクトリック・スタートアップを備えた標準的なプログラムで、高出力が必要な場合のみ、V6エンジンがオンになる。

「レース」モードは、特別な充電戦略を備えたモード。エンジンは常時作動し、高電圧バッテリーをより効率的に充電することができるため、常にモーターからの力をフルで利用することができることになる。

「レース・プラス」と「ストラト2」は、いずれもサーキット専用のドライブモード。アクティブエアロ・ダイナミクスのセッティングや車高のローダウン(いずれも前後、37mm、30mm低下する)、よりハードなシャシーチューニングなどが提供される。

 参考までに「ストラト2」モードでの0-200km/h加速は7秒ジャスト。0-300km/h加速さえ、15.6秒でこなしてしまう。搭載されるミッションは、新開発の7速AMGスピードシフトで、そのコンパクトな設計もまた、優秀な運動性能に大きな効果を生み出している。

 前後のサスペンションは、プッシュロッドを採用したアルミニウム製のマルチリンク式。各々5本のリンクと2本の調整可能なサスペンションストラットで構成されている。もちろんアクティブ・ダンピングの機能も搭載されており、C(コンフォート)とS(スポーツ)の設定を前述のドライブプログラムを通じて選択することができる。

 ハンドリングはF1とは異なり、全輪駆動とトルクベクタリングによっても支援され、さらにABSも標準装備。ESPはメルセデスAMGの慣例に従って、3段階での調節が可能となっている。

 前後のホイールはフロントに19インチ、リヤには20インチ径が選択されているが、これらももちろんONEのための専用。センターロック式の10本スポークデザインは、エアロダイナミクスのためにカーボンファイバー製のパーシャルカバーが放射状にフィットされており、ホイールまわりの空力効率を高めている。タイヤはミシュラン製のパイロットスポーツカップ2R M01。サイズはフロント285/35ZR19、リヤ335/30ZR20だ。

 エクステリアデザインも、とても魅力的な造形に仕上がった。それはメルセデスAMGの哲学である「魅力は常に機能とリンクする」を体現したもの。実際のスタイリングは、デザイナーとエンジニアが綿密に連携して行われ、50km/hという低速域からダウンフォースを発生させ、速度が上がるにつれてその大きさは徐々に強まっていく。

 低くダイナミックなグリーンハウスは、独特なウインドウパターンを持つ球形の構造が採用されている。ルーフにはF1由来のエアインテークがあり、ここからエンジンへと必要に応じて新鮮な空気が送り込まれる。

 シャープなスポイラーリップと二分割されたリヤデフューザーも、高速時の空力効率とパフォーマンスの優位性をもたらす重要なアイテムだ。リヤウイングは2ピースの格納式ブレードと調節可能なフラップが一体化した構造。エキゾーストパイプのデザインは、F1マシンから直接採用されたものであるという。

 思えば我々は、このONEのデビューをかなり長い時間待たされていきた。だが、その時間の中で、ONEには最良のハイパーカーとして誕生するために、さまざまな開発作業が繰り返されてきたのである。同様に、デリバリーのスタートを待ち望んでいたオーナーには、もう少しの時間で自らのONEが納車される記念すべき日が訪れる。それはまさに、ともにAMGの創立55周年を祝う、オーナーにとっても歴史的な一日となるのだろう。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
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