ミッドシップ! 360ccなのに4気筒! 日本初のDOHC採用! ホンダ初の市販4輪車「軽トラのT360」は技術が渋滞してた (2/2ページ)

DOHCエンジンをアンダーフロア・ミッドシップに搭載

 T360は、商用の軽トラックとはいえ数々の逸話もある。筆頭は、なんといっても車載されたエンジンだろう。二輪車のメーカーとして英国のTTレースへの参戦と勝利、あるいは四輪車への進出前に取り組んだF1参戦と勝利などを通じ、世界と互角に競える高性能エンジンの開発に挑んできたホンダにとって、車種を問わず高性能エンジンを使うことは当然の成り行きであったのだろう。

 T360のエンジンには、日本初のDOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)が採用され、直列4気筒(スバル360は2気筒)で、シリンダー内側のスリーブ以外はアルミ合金で作られていた。これをミッドシップ(前輪と後輪の間)に搭載した。

 一方で、ハンドルの右側に駐車ブレーキのレバーとシフトレバーを配置し、その理由として、助手席に子どもがふたり乗れるようにした配慮であるなど、まだ子だくさんだった時代の暮らしに目を向けた様子は、遠心式クラッチにより左手でのクラッチ操作をなくし、片手に岡持ちなどをもって配達できるように考えた二輪車のスーパーカブにも通じる、生活する人々の利便性を第一に考えた本田宗一郎の目の付けどころを感じさせる機構でもある。

 創意工夫のなかで、発売後には、改良のための設計変更を余儀なくされたこともあった。その後のN360やシビックの時代になってもホンダ車のひとつの試練であり、挑戦するがゆえに完成度は必ずしも十分でないまま売り出された当時の様子をうかがわせる。しかし、見方を変えればそれはレースに挑戦する現場の姿に通じるといえなくもない。

 独創と競争に生きるホンダらしい商品の姿だ。


御堀直嗣 MIHORI NAOTSUGU

フリーランスライター/2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
日産サクラ
趣味
乗馬、読書
好きな有名人
池波正太郎、山本周五郎、柳家小三治

新着情報