誰も考えなかった走りでゴボウ抜き! もはや事件ともいっていいNASCARでの「ミニ四駆走法」って何? (2/2ページ)

衝撃吸収のための「SAFERバリア」を巧みに利用した壁走り

 今回、ミニ四駆走法が問題となったのは、2022年の第35戦が開催されたマーティンズビル・スピードウェイでのことだった。同コースは1周0.526マイル(847メートル)で、NASCARを開催するオーバルサーキットとしてはもっとも短いコースのひとつである。当然、2本の直線を結ぶ4つのターン(コーナー部分)は曲率もきつくなり、コース設定としては低速コースとなる。

 この低速ギヤでアクセル開度を調整しながら走る第3ターンで、ロス・チャステイン選手が5速ギヤに入れ、アクセル全開のままターンアウト側の「SAFERバリア」に車両の側面ほこすりつけながら走行。壁に接しながら走るスタイルが、ミニ四駆と同じだったためミニ四駆走法と命名されたわけだが、チャステンはここでイン側を走る車両を5台ゴボウ抜き。当時10番手を走っていたチャステインはこれで5位に浮上し、翌週に開かれるチャンピオンシップレースの賞典対象車として同レースへの出場権を獲得。

 ターンアウト側に張り巡らされたバリアが、その名のとおり衝撃を和らげる「SAFERバリア」だったため、チャステインの車両には大した損傷もなく、ハイスピードで第3ターンを走り抜けられたことから5台のパスに成功したというわけだ。

 留意しなければならないことは、チャステインがこの走りを実行した時点で、競技車両はバリアに沿って(接して)走ることは違反(故意、不可抗力に関わらず)という規則がなく、チャステインの走りがそのまま認められたことである。当然ながら、この走りには賛否両論あり、虚を突く鮮烈な走り方だった、とその発想を認めるドライバーも多かったようだ。ちなみに、チャステインがSAFARバリアに車体をこすりつけながら走ったミニ四駆走法のトップスピードは、通常の走りより50マイル(約80キロ)ほど速かったという。

 しかし、主催者側は、本来衝突時の衝撃を和らげるために設置した「SAFERバリア」を、速く走るために積極的に利用する方法を認めることはできないとし、今後は禁止という方向で検討が進められているという。

 ちなみに、コーナリングに関して似たような例は日本にもあり、通常のサーキットでコーナーイン側に設けられたコンクリートカーブ(ゼブラゾーン)を、積極的に踏んで走る走法は、ペナルティの対象と判定する例も見られている。ミニ四駆走法にしても、ゼブラゾーンに踏み出した走りにしても、何が故意で、何が不可抗力だったかを正確に判定する必要があり、判定を下すことが難しいと思われる。それにしても、勝負に勝つためには、突拍子もない走りを考えつくものである。


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